正欲の映画専門家レビュー一覧

正欲

『桐島、部活やめるってよ』『何者』などを手がけた作家・朝井リョウの第34回柴田錬三郎賞受賞作を「前科者」の岸善幸監督が映画化した群像劇。家庭環境も容姿も性的指向も異なる5人の距離が少しずつ縮まり、ある事件をきっかけにそれぞれの人生が交差する。岸監督がメガホンを取った「あゝ、荒野」やドラマ版『前科者 -新米保護司・阿川佳代-』の脚本を手がけた港岳彦が、岸監督と再びタッグを組む。「窓辺にて」の稲垣吾郎、「ミックス。」の新垣結衣らが出演、生きていくための原動力が“当たり前”とは違う形である人たちの人生を浮かび上がらせる。
  • 文筆家

    和泉萌香

    眉毛をべったり(!)描いて登場する新垣結衣が、ベッドに寝転んだ自分を発見して鏡を隠す。欲望を感じる自分自身の姿は、見たくない。新垣はじめ俳優たちが向かいあうごと、カメラは各々の顔をとらえ、彼らの瞳もまた拒絶、歩み寄り、興味、空洞、時に鏡のような表情を見せるのが素晴らしい。〈普通〉とは異なる欲望を抱く人々を描きながらも、物語は社会において最も守られるべき存在に対しての姿勢は徹底し、許してはならないそれへ引いた線は崩さない。原作も読まなければ。

  • フランス文学者

    谷昌親

    物語やテーマは原作から受け継いだものではあるが、ここまで多様性について考えさせてくれる作品はあまりない。同時に、岸善幸監督がインタヴューで強調する「二面性」にも関係する作品になっていて、まさにそれが、「二重生活」以来の監督の関心事だと感じさせる。その二面性に最も苦しむのが、新垣結衣が演じた夏月だ。その夏月や彼女と秘密を共有する佳道に観客は共感するようになるのだが、もし別の性的指向を描いた場合でもそうなるのか、という疑問がどうしても残ってしまう。

  • 映画評論家

    吉田広明

    人と違う嗜好を持つために生きづらい人々の連帯という主題自体は全くの正論、異論の余地もないが、しかしその嗜好が水フェチ程度で自分を宇宙人に感じるとかお前は社会のバグだと言われるとは大仰過ぎないか。それは異端性の一つの比喩に過ぎず入れ替え可能とは逃げ口上で、水だからこそ観客は安心しているし、それが静謐な映画のトーンを決定するのだから、唐突にそれを言語道断な性的暴力と一緒くたにして衝撃を与えるのは無理筋。為にする設定、安易な想像力の所産というほかない。

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