キリエのうたの映画専門家レビュー一覧

キリエのうた

岩井俊二監督が、2023年に解散した“楽器を持たないパンクバンド”「BiSH」のメンバーで、現在はソロとして活動中のアイナ・ジ・エンドを主演に迎えて贈る音楽映画。「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」などで岩井俊二と組んだ小林武史が音楽を担当。本作が初主演となったアイナは歌うことでしか“声”が出せない路上ミュージシャン・キリエを演じ、主題歌を担当したほか、劇中曲6曲を制作した。共演は、岩井組初参加の松村北斗(SixTONES)、「リップヴァンウィンクルの花嫁」の黒木華、「ラストレター」の広瀬すず。石巻、大阪、帯広、東京を舞台に、別れと出逢いを繰り返しながら、4人の人生が交差し、絡み合い、奏でる、13 年におよぶ魂の救済の物語。
  • 文筆家

    和泉萌香

    アイナ・ジ・エンド演じる、歌うときにしか声を発することができない女性、キリエの過去が徐々に明かされてくごとに、目の前にいる女は一体誰なのか、実体はあるのか、いや、何の目的でここにいるのかと動揺するほど、彼女は揺らめく炎のような、霊媒的な魅力を放つ。長い長い物語の中で、二人の姿だけ見ていればいい!と思わせる、自分で自分の名前を新しく付けた女の子たちの素晴らしさには涙が出てくる。広瀬すずが圧巻だ。終盤、彼女の再登場により映画は別次元へと跳躍する。

  • フランス文学者

    谷昌親

    ほぼ3時間におよぶ上映時間を苦にさせない作品だ。ただ、それは映画の力のなせるわざではなく、むしろ歌のなせるわざと言えるだろう。路上ライブのシーンでのアイナ・ジ・エンドのパフォーマンスは圧倒的だ。だからこそ、それ以外のシーンではむやみに音楽を流すのを控えるべきではないか。脇役も含めて、豪華で多彩な俳優陣はそれぞれ力のこもった演技を繰り広げているし、東京、帯広、大阪、石巻と展開していく物語も興味深い。ことさらに音楽で感情を煽る必要などないはずだ。

  • 映画評論家

    吉田広明

    アイナ・ジ・エンドの歌の力は確かに超弩級といってよいが、それを支える説話構造がこれではさすがに可哀そうというものだ。「妹」だから無垢であり、トラウマだから声は出ないが歌は天才的だなどという想像力の通俗性に辟易する。それを誰もが無条件で肯定すると思うなよと言いたい。かてて加えて、「妹」を兄から引き離す児相、「妹」の「心の歌」を妨害する警察を悪役に仕立てて、官僚主義に抗する彼らの純粋さを担保しようとするあざとさ。なるほどいかにも岩井映画の感。

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