PLASTICの映画専門家レビュー一覧
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文筆家
和泉萌香
可愛い二人のデートシーンで現れるキリンに「ハチミツとクローバー」をふと思い出す。「恐竜とかってもし目の前にいたらこんなだったのかな」。太古の昔に遙か彼方の宇宙と、巨大なイメージを夢想し、包まれつつも、じんわりと息苦しくなった小さな世界で「幻」を中心にぐるぐる回る若い心。現実ならば続いていく時間を切断し、まだ青春の場でさまようことを許すのは映画の優しさか。「プラスチック」の乾いた響きと、散りばめられたまだ悩み知らずの色彩が、カラッとした余韻を残す。
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フランス文学者
谷昌親
ドキュメンタリー的な冒頭に意表を突かれつつも、青春映画なのだとうっかり納得しているうちに、時間が飛び、人物の関係性も変化し、コロナ禍のなかの世相まで描かれる。半世紀前―ザ・ストゥージズが解散したのと同じ1974年―に消息を絶った幻のミュージシャンがからんでいるという設定が効いていて、男女が別々に同じ歌を口ずさむあたりはミュージカル的でもある。ドライヤーや青山真治の映画をさりげなく引用しつつ、静寂を切り裂くエレキギターのように鳴り響く快作。
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映画評論家
吉田広明
時間錯誤の物語。七十年代に解散したバンドの音を、今聞き届けてしまったために出会った高校生二人が、別れ、また出会い直す。冒頭で言及される、宇宙に向けて発せられ、二万年かけて目的地に届く通信もそうだが、メッセージの宛先は不確定だ。誤配も受け取り損ねもメッセージの本質であり、そのことは同じバンドに遅ればせにイかれた同級生が示している。それも含めて何なら群像劇にしてほしかったが望蜀だろうか。コロナ下の廃墟めいた時間の生々しいドキュメントとしても見れた。
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