あしたの少女の映画専門家レビュー一覧

あしたの少女

実習生として働いていた高校生が自殺した実際の事件を基に映画化し、第75回カンヌ国際映画祭で韓国映画として初めて批評家週間のクロージング作品に選ばれた人間ドラマ。担任の紹介によりコールセンターで働き始めた高校生ソヒは、厳しいノルマを課され……。監督・脚本は、「私の少女」のチョン・ジュリ。出演は、「ベイビー・ブローカー」のペ・ドゥナ、オーディションで主人公に抜擢されたキム・シウン。
  • 文筆業

    奈々村久生

    ペ・ドゥナ本人からうかがえる、人としての潔癖さのようなものを、最も顕著に引き出しているのがチョン・ジュリ監督だ。「私の少女」(14)の姉妹篇ともいえる本作では、他者の無理解とどこまでも弱者を食いものにするべくがんじがらめになっている社会の仕組みが追及される。清濁併せ飲むのが賢い生き方とされる中、自分にも他人にもそれをよしとできない不器用な人たちの孤独な闘いは、正義として肯定されたりしない。誠実であることは絶望と真正面から向き合うことなのだ。

  • アダルトビデオ監督

    二村ヒトシ

    被害者の死から映画を始めて刑事が過去を追ってくような常套手段の構成を裏切っていて、だから前半の主人公が「なぜ自分が死ななきゃいけないのか、よくわからない。でも死ぬしかない」と追いこまれていく過程がリアルすぎて、観てるほうも「えっ、そんな会社、早く辞めればいいのに」と、わかってない友人の役に立たない冷たいアドバイスみたいな感想をもってしまい、マジで後半、いたたまれなくなります。新自由主義の下で心を削られていく社会のキモチワルさは日本も他人事じゃない。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    チョン・ジュリ監督の前作「私の少女」は、同性間の愛と魔性を捉えた傑作だった。本作は打って変わり、人間の尊厳を破壊し感情を殺す、ブラックなコールセンターの実態を描く。企業だけでなく、電話をかける側も客の立場を利用し口汚く罵倒する。企業内の労働基準問題は日本でも行き届かず、駐車場で抗議としか思えぬ焼身自殺を図った男性の、あの企業はその後改善されたかに思いを馳せずにいられない。刑事のペ・ドゥナ一人で解決できる問題ではなく、歯車として壊れた女性に涙を零すのがやっとだ。

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