熱のあとにの映画専門家レビュー一覧

熱のあとに

「ここは退屈迎えに来て」の橋本愛主演、2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件から着想を得た人間ドラマ。愛したホスト・隼人を刺し殺そうとした沙苗は、服役後にお見合いで出会った健太と結婚。しかし隣人・足立が現れたことから、運命の歯車が狂い始める。監督は、短編「回転(サイクリング)」がPFFアワード2016に入選、東京藝術大学大学院修了制作「小さな声で囁いて」がPFFアワード2018に選出された山本英。自分の愛を貫くためにホストを殺そうとした沙苗を橋本愛が、沙苗の過去を知った上で結婚する健太を「泣く子はいねぇが」の仲野太賀が、謎めいた隣人・足立を「菊とギロチン」の木竜麻生が演じる。2023年第28回釜山国際映画祭ニューカレンツ部門にてプレミア上映。2023年第24回東京フィルメックス・コンペティション部門上映作品。
  • 文筆家

    和泉萌香

    その事件が起こった当時「一度は私たちも考えてもやらなかったことを、彼女は“やった”」というつぶやきを見た。映画は、どうであれその行為をやったという驚愕のあと、愛のあり方を問う女と、彼女の檻となった男の姿を描き、若いふたりの愛の問答は少々おかしくなってしまうほどに痛切なもので、絶対的なものを求める女の、仮死状態の生へのひとつの決着の物語としても成立している。妻のキャラクターは蛇足な気も。山本監督は本作が商業デビュー作とのことで次作も楽しみ。

  • フランス文学者

    谷昌親

    かなり衝撃的なシーンから始まるだけに、そこで描かれる事件へと至る過程に遡るかと思いきや、逆に、「六年後」の字幕が出て驚かされた。つまり、タイトルにあるとおり、「熱のあと」が描かれるのであり、「まえ」ではない。そしてだからこそ、不可解とも思えるような展開もそれなりに成り立ってくる。不条理劇的なエピソードやせりふ回しにはやや辟易させられるものの、随所にユーモアもふりまきながら、階段、霧の湖、刃物、猟銃といった映画的装置を始動させる作品なのである。

  • 映画評論家

    吉田広明

    主演の橋本、木竜二人を狂わせ、登場人物の全員がその人を中心に回っているホストをほとんど出さず、ブラックボックス化しているために、愛とは何なのかという映画の主題に対する作り手の結論が不明瞭になってしまっている。描かないことによって映画の世界が深まるわけでは決してなく、単に逃げているように見える。これだけの役者を使っていても、彼らの存在感だけでその欠を埋められるものではない。新人であればこそ、雰囲気で逃げずに核心部分に真っ向から臨んでもらいたかった。

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