VORTEX ヴォルテックスの映画専門家レビュー一覧

VORTEX ヴォルテックス

鬼才ギャスパー・ノエが“暴力”と“セックス”を封印し、自身の体験に基づき、“病”と“死”をテーマに作りあげた物語。心臓病を抱える夫と、認知症を患う妻。離れて暮らす息子は、両親を心配しながらも、お金を無心するために家を訪れるが……。出演は「サスペリア」などを送り出したホラー映画の巨匠ダリオ・アルジェント、「ママと娼婦」のフランソワーズ・ルブラン。
  • 文筆業

    奈々村久生

    同じ空間を共有しながら別々の時間を生きる夫婦。人生の終わりに向かう日々を、複数の監視カメラ映像をスイッチングしつつモニタリングするようにつないでいく構成は、悲劇と呼ぶにはあまりにも写実的で等身大。そこにあるのは否応なく流れる時間の静かな暴力性だ。しかしすべてが終わったと見えたとき、エンドロールからの始まりを思い出して、時系列を逆にした「アレックス」の「時はすべてを破壊する」という言葉にたどり着き、時間に抵抗するノエの執着を思い知るのである。

  • アダルトビデオ監督

    二村ヒトシ

    とてもつらい映画。頭が曖昧になって、いろんなことが次第にわからなくなっていくのに体は達者なのは本当にさみしい。頭がハッキリしてるのに体の自由が利かなくなっていくのもさみしい。がんこになるのもさみしいし醜い。むこうも中年になった昔からの愛人に、相手にされなくなるのも実にみじめ。過去の偉そうな仕事の実績が老いた自分を救ってくれるわけじゃないのもみじめ。いずれ老いゆく者、つまり現代の我々全員にとって必見の映画だと思ったが、あまりにもつらすぎて星は2つ。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    ノエは時折ひどく切ない愛の映画を撮る。恋愛で相手を深く愛する者は、裏切られた時の心の痛みが尋常ではない。正気ではいられないくらいに傷を負う。本作はスプリットスクリーンで、夫のアルジェントがいまだに浮気をして、他の女性に依存している様子を写す。かたや妻のルブランは認知症が進行して徘徊や不始末を起こす。だが夫の大事な原稿を流すのは意図的だろう。彼女は憎悪するほどにまだ愛がある。ノエはまた、彼らの息子を麻薬の売人にし、愛の結晶も負け犬な人間に育つ現実的な苦みを描く。

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