僕らの世界が交わるまでの映画専門家レビュー一覧

僕らの世界が交わるまで

「ソーシャル・ネットワーク」などに出演した俳優ジェシー・アイゼンバーグが初めて監督・脚本に挑んだ人間ドラマ。DVシェルターを運営する母エヴリンとライブ配信で音楽活動をする高校生の息子ジギーは互いのことを理解できずに衝突してばかりだったが……。「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンが夫で『サタデー・ナイト・ライブ』の作家デイヴ・マッカリーと共に立ち上げた映画・TV制作会社フルート・ツリーや「ミッドサマー」などを送り出した映画会社A24が製作に参加。社会奉仕に勤しむ母エヴリンを「アリスのままで」でオスカーを獲得したジュリアン・ムーアが、フォロワーのことしか頭にない息子ジギーを「ゴーストバスターズ/アフターライフ」のフィン・ウォルフハードが演じる。2022 年サンダンス映画祭にてワールドプレミア上映。2022年第75回カンヌ国際映画祭批評家週間オープニング作品。
  • 映画監督

    清原惟

    「まったく価値観の違う大切な人たちと仲良くやっていくにはどうしたらよいのか、そのような考察をしたかった」と監督が語っていた。まさに今の世の中の問題の多くがそこに帰結するような気がするが、この映画は、それでも対話をやめない、というような積極的な関わりでなくとも、相手を拒絶したり否定しなければ共有できる瞬間がいつか訪れるかも、というような希望を描いている。多くは語らない脚本だけれども、芝居の素晴らしさで多くがわかる。みんな悪い人でもいい人でもないのもいい。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    DV被害者のシェルターを運営する活動家で対抗文化世代の残滓を引きずる母親とSNSのインフルエンサーとして肥大した幼稚な自己愛を持て余す息子という構図が面白い。当初、対極的に見えた歪な母子関係が夫々〈他者〉の出現によって意外な相似性が浮かび上がるカリカチュア抜きの語り口は上質な短篇小説を読むようである。かつてのアルトマン映画のヒロインを思わせる裡に無意識の権力性と静かに沸騰する狂気を抱えたジュリアン・ムーアの佇まいはまさに圧巻というほかない。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    DVシェルターで働く社会貢献意識の高い母親はよく出来た他人の息子に、人の成功をフォロワー数と投げ銭の金額ではかる息子は政治意識の高い同級の女子に引かれている。親子関係の不満を他者で埋めようと不毛な努力をするふたり。監督・原作・脚本のジェシー・アイゼンバーグ。彼は、理屈で動く現代人の混乱を理知で相対化できる役者でもあるが、この監督デビュー作ではそれが上っ面で終わっている。人への洞察、風刺の質が表層的で、本物にするための誠実さが希薄と思えた。

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