風よ あらしよ 劇場版の映画専門家レビュー一覧

風よ あらしよ 劇場版

大正時代の女性解放運動家・伊藤野枝を描き第55回吉川英治文学賞を受賞した村山由佳の評伝小説原作、吉高由里子主演の2022年放送のNHKドラマを映画化。家のための結婚を蹴り上京した伊藤野枝は、青鞜社に入り婦人解放を訴え、波乱に満ちた人生を歩むが……。吉高由里子が主演した2014年NHK 朝の連続テレビ小説『花子とアン』のディレクターを務めた柳川強が演出を手がけ、2016年放送のTBSドラマ『毒島ゆり子のせきらら日記』で第35回向田邦子賞を受賞した矢島弘一が脚本を担当。短くも激しい人生を送る伊藤野枝を吉高由里子が、平塚らいてうを松下奈緒が、野枝の第一の夫であるダダイスト・辻潤を「正欲」の稲垣吾郎が、後のパートナーとなる無政府主義者・大杉栄を「福田村事件」の永山瑛太が演じる。
  • 文筆家

    和泉萌香

    男女格差、セックス、愛、家庭、自由恋愛の果て、論じ描いた社会生活の姿、そして国家の犬に殺されるまで、伊藤野枝の短くもすさまじい人生はテーマひとつ、ある期間ひとつを切り取り描いてもむせ返りそうな濃密な映画になると思うが、「風よ、あらしよ」の言葉には追いつかない、単調な人物紹介ドラマの枠にとどまってしまっている。神近市子の刺傷事件も、ホラーめいた演出なのが残念だ。だが、彼女の叫びと言葉に一片でも触れる機会、多くの人に見てもらいたいと思う。

  • フランス文学者

    谷昌親

    伊藤野枝の人生がいかに苛烈なものであったかは伝わってくるし、胸を打たれもする。それは、物語が持つ力の証でもあるだろう。しかし、映画として見た場合、俳優たちの熱演にもかかわらず、どうしてもダイジェスト版のように感じられてしまう。テレビで3回にわたって放映したドラマの劇場版になるわけだが、劇場用に再編集するのであれば、もっと思い切った編集の仕方もあったのではないか。そうすれば、この作品に欠けている、映画そのもののダイナミズムが出てきたかもしれない。

  • 映画評論家

    吉田広明

    大杉栄は十代の頃に著作も読み、その思想は現在においても自分の根底を支えているが、伊藤野枝は吉田喜重の映画を通じてその重要性は知りながら親しい存在とは言えず、ゆえに彼女がその無垢、純真なセンチメンタリズムによって却って大杉のうちに潜む無意識な男性性を撃ち、彼を鼓舞したその重要性は不覚にしてほぼ初めて知った。とは言えそれ以上の映画的感興があったかと言えば疑問で、元がNHKのドラマだと言われればなるほどそうだなと言うしかなかったことは確かだ。

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