落下の解剖学の映画専門家レビュー一覧

落下の解剖学

2023年第76 回カンヌ国際映画祭パルムドールに輝いた、ジュスティーヌ・トリエ監督によるサスペンス。山荘で男が転落死し、視覚障がいのある息子だけが現場に居合わせていた。妻に容疑がかけられ、夫婦関係が暴かれていくが……。夫の死をきっかけに仲睦まじい夫婦の表の顔とは全く違う真の姿が暴かれていく様を描く。主演は「ありがとう、トニ・エルドマン」のサンドラ・ヒュラー。共演は、「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」のスワン・アルロー、「BPM ビート・パー・ミニット」のアントワーヌ・レナルツほか。2024年第81回ゴールデン・グローブ賞作品賞(ドラマ部門)、主演女優賞(ドラマ部門/ザンドラ・ヒュラー)、脚本賞、外国語映画賞にノミネート。
  • 映画監督

    清原惟

    人間同士の関係性はとても複雑だということに、真正面から向き合った作品。裁判ものなので、最終的な勝ち負けは存在している。だけれども、人生において何が正しく間違っているかということは、本当の意味では判断できないということを思う。主人公である小説家の女性も、目の不自由なその息子も、弁護士も、みな忘れがたい顔をしている。素晴らしい演技を刻みつけられる場面があった。2時間半という時間が短く感じるほど、彼女たちの過ごしてきた人生の時間を想像させられる。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    かつてのシャーロット・ランプリングを思わせるザンドラ・ヒュラーの沈着な、しかし微妙に千変万化する表情に魅せられる。傲慢さ、悲嘆、諦念、幻滅、その内面で生起している感情を容易には看取させない貌と身振りを見つめているだけで飽くことがない。現場に唯一、居合わせた視覚障がいの息子の怯えと繊細さを際立たせる音響設計、緩慢に〈夫婦の崩壊〉の内実を浮かび上がらせる作劇も見事だ。ショパンのプレリュードがこれほど哀切かつメランコリックに響く映画も稀有ではないだろうか。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    フランスで夫殺害の罪に問われたドイツ人の妻を巡る法廷劇。フラッシュバックではなく、言葉で語られる事件の“解剖”に重点が置かれる。しかも舞台劇的ではなく映画的なのだ。夫妻はドイツ人とフランス人で、共通言語は英語。言語の目隠しが感情の目隠しとなって、関係の力学に軋みが生じる。夫婦喧嘩の感情的な暴発は「イン・ザ・ベッドルーム」「マリッジ・ストーリー」以来のリアリティ。ドイツ女優ザンドラ・ヒュラーが圧巻で、スワン・アルローら男優陣も卓越している。隅々まで緩みない映画表現。

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