ルート29の映画専門家レビュー一覧
ルート29
監督デビュー作「こちらあみ子」で第27回新藤兼人賞金賞を受賞した森井勇佑監督が、綾瀬はるかを主演に迎えて贈る優しさに満ちたリリカルなロードムービー。『ルート29』の発端は森井監督が詩人の中尾太一の詩集『ルート29、解放』からインスピレーションを受けたことで、映画の舞台になった姫路から鳥取を結ぶ一本道の国道29号線を約1ヵ月間旅して脚本を完成させた。他者と必要以上のコミュニケーションを取ることのできない主人公トンボが風変わりな女の子ハルと旅をし、絆を深めていくなかで、からっぽだった心に喜びや悲しみの感情が満ちていく時間を綴る。トンボ役に綾瀬はるか、ハル役に「こちらあみ子」でデビューを果たした大沢一菜。
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文筆家
和泉萌香
緑が毒々しいくらいに鮮やかで、多様なイメージとともに生と死、幻と現実、そしてふたりのやりとりにもあるように、他者と自分の夢が交わるような場所にひかれた道をゆったりと進んでゆく。面白いのが狙ってか狙わずしてか、主人公のふたりだけが見えているであろう景色のみが生き生きとみえ、どうにも相容れないであろう他者の描写は(たとえ肉親であっても)どんよりと冗長だ。社会が介入したあとに、ついには観客の目にもみえるかたちで夢が噴出するラストシーンが潔く、美しい。
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フランス文学者
谷昌親
原作が詩集だからでもあるのだろうが、それこそ詩的であり、同時に、乾いたユーモアで彩られ、一風変わったロードムーヴィーになっている。しかも、ラストにはファンタジー的とも呼べるシーンが置かれている映画だ。そうした映画のあり方から逆算したのかもしれないが、独特の演出法が採られている。それは、森井勇佑監督の才気煥発ぶりを示す演出でもある。しかし、こうした演出をするのであれば、エピソードを少し刈込み、もっと省略表現を効果的に用いるべきだったのではないか。
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映画評論家
吉田広明
原作となる詩集を未読なので、そこからどのように想像力を働かせてここに至ったのかは評価しかねるのだが、しかしいくら詩集からの映画化とは言えこの緩さはどうなのか。ロードムービー自体が緩い枠組みではあり、しかしそれが生まれるには歴史的必然があった筈で、その意識が欠けた本作では単に人と次々出会うための形式に過ぎない。変な人たちをロングで、変な間で捉えれば面白くなるのか。新進なら水平的な加算でなく垂直的掘り下げの困難な道を選ぶべきでは。
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