情熱の王国の映画専門家レビュー一覧

情熱の王国

「カルメン」などを手がけたスペイン映画界の巨匠カルロス・サウラが、ミュージカルを作る過程を描いたドラマ。演出家や振付師の葛藤、若者たちの競争などを捉え、アレンジされた伝統音楽とダンスが組み合わさった、悲劇と虚構と現実が交錯する舞台が生まれる。「フォーエバー・パージ」のアナ・デ・ラ・レゲラ、「オットーという男」のマヌエル・ガルシア=ルルフォらが出演。2023年2月10日に他界したカルロス・サウラ監督の追悼企画『VIVA SAURA! ~未来に生きるシネアスタ~』にて上映。
  • 俳優

    小川あん

    劇の舞台裏を描く映画の世界線は面白い。舞台装置を覗くことができるのが見どころの一つだ。本作品の出発点、事故車がステージ中央に置かれている。運転席に倒れている有望なダンサーの女性は、半身不随になる。破壊からはじまるミュージカル。そして、演出家と情熱的な若者たちによって、エモーションを蓄積していく。人物描写には多少テンプレート感があるけれど、そこに表現は求めない。自国を代表する個々の責務が情熱をもった身体を激しく揺らし、全体で一つのアクセルを踏む。

  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    ストラーロのデジタル画面にどうもなじめないのだがそれはさておき、どこまでが舞台内の(虚構の)出来事なのかを曖昧にし、虚実の境を問う趣向のバックステージ物映画。動きを積み上げていくミュージカル的カタルシスを、まるで志向していない群舞の撮り方はさながらドキュメンタリー。サウラにはバルセロナ五輪公式記録映画「マラソン」という作品があって、坂本龍一も登場する開会式のパートが特にいいのだが、そこに見られるドキュメンタリー感覚と音楽センスが、この作品にも通じるように思う。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    スペインのカルロス・サウラ監督作でメキシコを舞台にミュージカルを作る過程を描いたミュージカルを映画に。現在のメキシコの治安の悪さと歴史の複雑さを背景にした劇中劇ならぬミュージカル中ミュージカルという入れ子構造をさらに映画にし、映画のカメラも中に映り込むという三重入れ子構成。撮影の名手ヴィットリオ・ストラーロによる頭脳的なカメラも相まって、芝居と舞台裏の線引きが曖昧で迷宮に迷うような映画体験。試みは実験的で面白いが、軸となる男女の物語は極めて紋切り型で落胆。

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