ナミビアの砂漠の映画専門家レビュー一覧
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文筆家
和泉萌香
宣伝文句を頭に入れて見ていたのだがちょっと予想外、ただごとではなく、ひっくり返ってしまった。冷凍庫の食材をあたためることさえしない、だらしない、近くにいる(いるからこその)男たちの愛情を試しまくってはがんじがらめになり、自傷していることも気がついていないであろう「激情的」に見える女の像を、距離とさめた温度を保って描きあげた山中瑶子、天才的ではなかろうか。彼女と河合優実が、若い女の青春ポートレートを塗りかえた。ああ、20代前半のあのころ……キツかった!
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フランス文学者
谷昌親
映画史においては、「不良少女モニカ」をはじめとして、さまざまな作品で不良少女が描かれてきたが、そのどれともまったく違う新しい不良少女がこの映画とともに誕生した。「勝手にしやがれ」のベルモンドよろしくタバコを手放さないカナの言動は人びとの理解を容易に寄せつけないが、山中瑶子監督はそうしたカナを、それこそナミビアの砂漠の水飲み場にやってくる動物たちを眺めるように、ひたすら見守る。そうした視線を受けとめて、カナの行動が映画ならではの躍動感を獲得するのだ。
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映画評論家
吉田広明
終始どこか不機嫌で、本能的に生きている女性。映画はこの女性が生きる世界をリアルで自然なものとして演出する。その場の光だけで撮ったかに見える照明、故意にダラダラした長回しや無造作なズーム、隣の席の声が意味として入ってくるリアル音響感等々。「自然」で「等身大」の存在である彼女が生きることに苦しむなら、それは世界の方が異常なのではと言わんばかりだが、しかしこの作為を作為的に抹消した「自然」という不自然の方が、周囲の偽善以上の欺瞞でないとは言えまい。
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