若き見知らぬ者たちの映画専門家レビュー一覧
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ライター、編集
岡本敦史
壊れかけの家族を描いたからといって、映画自体がバラバラになってしまうのは如何なものか。クライマックスの試合シーンは確かに迫力あるが、作品に貢献しているかというと疑問。映画制作には時間がかかるので、おそらく今の日本の若者を苦しめている問題をリアルタイムで描いたら、また違った中身になっただろう(困窮と政治批判が全然絡まないのはさすがに不自然)。また、コロナ禍を経て映画料金が2000円に跳ね上がったあとの企画なら、こんな鬱屈した作劇になったろうかとも思う。
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映画評論家
北川れい子
時代の気分をリアルに描いた内山監督の前作「佐々木、イン、マイマイン」は、世間に向かってザマアミロ!と一緒に叫びたくなるような青春群像劇だったが、今回は話が無理無理過ぎて、いささか置いてきぼり状態に。父の残した借金と精神が病んだ母を抱えてギリギリに生きている兄弟の話で、それでも兄には献身的な恋人やよき友人もいるのだが、とんでもない悲劇に。弟が総合格闘技の選手で試合の場面はかなり演出に力が入っているが、世間の理不尽さを描くにしても設定の強引さはやはり気になる。
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映画評論家
吉田伊知郎
前作と同じく内山監督が造形する世界には瞠目するが、これでもかと不幸が背負わされ、重苦しい空気が沈殿するので疲弊する。社会や権力への憎悪が希薄なせいか、主人公たちを不幸にさせているのは他ならぬ作者ではないかと思わせる作為性が気にかかる。一方、この窒息しそうな世界を、手綱を締めたま描き切る手腕が突出しているのも認めないわけにはいかない。生と死の境界が不意に越境して画面に出現する瞬間や、終盤の総合格闘技場面の技法も装飾もかなぐり捨てた描写が印象的。
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