クラブゼロの映画専門家レビュー一覧

クラブゼロ

第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたスリラー。名門校に赴任してきた栄養学の教師が説く環境保護にもなり、体力向上、幸福度もアップするという<意識的な食事法>、それは食べないことだった。次第に彼女に心酔していく生徒たちはやがて「クラブゼロ」という謎のクラブに参加し、やがてカルトの様相を極めていく。監督は「リトル・ジョー」のジェシカ・ハウスナー。出演は「アリス・イン・ワンダーランド」のミア・ワシコウスカ。
  • 文筆業

    奈々村久生

    ハーメルンの笛吹き男伝説を現代に移植したような、あるいは「ピクニック・アット・ハンギングロック」の系譜に連なるストーリー。ミア・ワシコウスカの硬質な佇まいが教師という立場の特殊性と潔癖な思想に説得力を与えている。思春期は世の中の複雑さや理不尽さに触れて極端な考え方に偏りやすい時期。男女共通の制服やセットデザインの洗練はウェス・アンダーソンの世界を彷彿とさせるが、それはつまり自らの美意識に反するものを徹底的に排除した排他的な空間であることを意味する。

  • アダルトビデオ監督

    二村ヒトシ

    恐ろしい映画。不食実践カルトは昔からあるが、これはまさに現在の、日本やアメリカの選挙戦、トランスジェンダーについての考えかたや、フェミニズムについての考えかた等々、自分の感情の傷を癒やすものだけを、いつのまにか暴力的に信じてしまった者だらけになった状況の隠喩だ。リベラルとネトウヨどっちがバカかという話ではない。ほとんどの人類は自分の身体と「えらそうでキモい親」が嫌いだし、さみしくて苦しい我々(そう、我々だ)は真理と真実で洗脳されて死ぬことを欲している。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    食べないことの行く末が死なのは自明で、それを教師と生徒たちが実践するのは、カルト教団の集団自殺と違わない。他の命を奪わず、雑多なものを身体に入れず、まるで透明な存在のようになりたい理想もわからなくはないが、でも好みの食と出会えなかっただけと言うカフカの『断食芸人』の突き放し方に比べると、まだ気取っている。吐瀉物を食べる不快な描写も、個人的にはまったく正視に耐えないが、やりきる心づもりは評価する。お洒落な色使いと装飾で映画を縁取る美学はある。

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