若松節朗 ワカマツセツロウ

  • 出身地:秋田県河辺郡河辺町(現・秋田市)
  • 生年月日:1949/05/05

略歴 / Brief history

【人間の信念と尊厳を正攻法で描く剛腕のエース】秋田県河辺郡河辺町(現・秋田市)の生まれ。日本大学芸術学部放送学科を卒業後、TBS系の制作会社“テレパック”に入社。ADを経て『思春期の妻たち』(84)などのテレビドラマを演出したのち、1986年、フジテレビ系の共同テレビジョンへ移籍する。局制作が少なかったフジテレビの中でテレパック時代のノウハウを生かし、『あまえないでヨ!』『ラジオびんびん物語』(88)、『この胸のときめきを』(89)、『パパ!かっこつかないぜ』(90)、『しゃぼん玉』(91)などのヒットドラマを数多く手がけた。90年代は『振り返れば奴がいる』(93)、『お金がない!』(94)、『正義は勝つ』(95)など織田裕二の主演ドラマを多数演出し、その縁で2000年、織田主演のアクション大作「ホワイトアウト」で映画監督デビューを果たした。もともと映像化不可能と言われたスケールの大きな原作であり、雪山を舞台にしながら暖冬にも苦しめられた末に完成。日本映画には珍しい本格的エンタテインメントとして大ヒットを記録した。その波に乗って一気に映画監督へ転身―というわけではなく、以後も『やまとなでしこ』(00)、『反乱のボヤージュ』(01)、『恋ノチカラ』『真夜中の雨』(02)、『熟年離婚』(05)などテレビ界で順調にキャリアを重ねているのは、共同テレビのエグゼクティブディレクターという自らの立ち位置ゆえか。映画の第2作「子宮の記憶・ここにあなたがいる」(07)は、登場人物の心理を掘り下げた小品であり佳作だったが、第3作「沈まぬ太陽」(09)では再び巨大プロジェクトに挑んだ。何度も映画化が企画されながらいずれも頓挫していた山崎豊子のベストセラー小説を原作に、3時間22分の大作として映像化を実現。イランやケニアでの過酷な海外ロケーションを含め、錚々たるスタッフ・キャストを束ねる力量を発揮した。同作はキネマ旬報ベスト・テン第5位にランクイン、報知映画賞と日本アカデミー賞の最優秀作品賞も獲得している。【テレビと映画で培われた力強い演出】80年代から90年代にかけて日本のテレビドラマ界を牽引した名ディレクターのひとり。2000年代に急増したテレビ出身監督にも数えられるが、テレビドラマの映画版によるデビューではなく、「ホワイトアウト」は映画プロデューサーからの抜擢を受けての登板、「沈まぬ太陽」では自主的に監督立候補した結果で、むしろ異業種監督の系譜で捉えるのが妥当であろう。ドラマ時代から軽喜劇を得意としつつも、時折シリアスで重厚なテーマの作品もさらっとこなす的確な演出力を発揮。映画に出かけてもスケールの大きな物語を破綻なくまとめ上げる強靱な力は、テレビと映画を往還しつつ、どちらにも誠実に対応することで培われたものだ。特に映画作品では、そつのない現場指揮に徹するよりは人間ドラマの創出にこだわりを見せ、これが「ホワイトアウト」「沈まぬ太陽」の興行的成功の一因となっている。

若松節朗の関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • 海の沈黙(2024)

    制作年: 2024
    『北の国から』『やすらぎの郷』などの倉本聰が、長年にわたって構想してきた脚本を、本木雅弘主演、若松節朗監督で映画化したサスペンス・ドラマ。世界的な画家の展覧会で展示作品のひとつが贋作と判明。波紋が広がるなか、小樽で女の死体が発見される。二つの事件を結ぶのは姿を消したかつての天才画家だった。男の秘めてきた想い、美と芸術への怨念、忘れられない過去が明らかになる時、至高の美と愛の全貌がキャンパスに描き出される。共演は「碁盤斬り」の小泉今日子、「大河への道」の中井貴一、「変な家」の石坂浩二、「愛のまなざしを」の仲村トオル。
  • Fukushima 50

    制作年: 2020
    門田隆将のノンフィクションを原作に、東日本大震災時の福島第一原発事故を描いたドラマ。2011年3月11日、巨大地震が発生。大津波で原子炉が冷却できなくなった福島第一原発では、吉田所長や現場作業員の伊崎が、最悪の事態を回避しようとするが……。出演は「楽園」の佐藤浩市、「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」の渡辺謙。監督は「空母いぶき」の若松節朗。
    82
  • 空母いぶき

    制作年: 2019
    かわぐちかいじの同名コミックを「沈まぬ太陽」の若松節朗監督が映画化。20XX年、日本領土である波留間群島の一部が謎の武装集団に占領された。自衛隊初の航空機搭載型護衛艦《いぶき》が出動するが、敵のミサイル攻撃を受け、想定を超えた戦闘状態に突入する。出演は「散り椿」の西島秀俊、「嘘八百」の佐々木蔵之介。脚本は「機動警察パトレイバー」シリーズの伊藤和典と「亡国のイージス」の長谷川康夫。
    70
  • 柘榴坂の仇討

    制作年: 2014
    『鉄道員』で第117回直木賞を受賞し『壬生義士伝』など作品の映像化が相次ぐ浅田次郎による短編集『五郎治殿御始末』のうちの一編を映画化。桜田門外の変で主君・井伊直弼を守り切れなかった彦根藩士・志村金吾が、明治の世となり時代が変わろうともなお主君を暗殺した敵を探し続ける時代劇。監督は「沈まぬ太陽」が第33回日本アカデミー賞最優秀作品賞ほかを受賞した若松節朗。主演は「次郎長三国志」「壬生義士伝」の中井貴一。井伊直弼を手にかけた後俥引きに身をやつし孤独の中に生きる佐橋十兵衛を「テルマエ・ロマエ」の阿部寛が、金吾の妻を「おくりびと」の広末涼子が、井伊直弼を人間国宝である歌舞伎俳優・二代目中村吉右衛門が演じる。2014年9月13日より、滋賀県先行公開。
    74
  • 夜明けの街で

    制作年: 2011
    人気作家・東野圭吾の同名小説を、「沈まぬ太陽」の若松節朗監督が映画化した恋愛ミステリー。幸せな家庭を持つ大手企業の会社員が、偶然知り合った若い女性と不倫関係に落ちてゆくが、彼女には殺人事件にまつわる秘密があった……。出演はNHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国』の岸谷五朗、「セカンドバージン」の深田恭子。
    60
  • 沈まぬ太陽

    制作年: 2009
    「白い巨塔」「華麗なる一族」などの人気作家・山崎豊子の同名小説を「ホワイトアウト」の若松節朗が映画化した社会派ドラマ。巨大企業に翻弄されながらも自らの信念を貫き通す男の姿を描く。出演は「硫黄島からの手紙」の渡辺謙、「ヘブンズ・ドア」の三浦友和、「余命」の松雪泰子、「ぼくとママの黄色い自転車」の鈴木京香、「私は貝になりたい(2008)」の石坂浩二など。
    70