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- 荻上直子
略歴 / Brief history
【のんびりマイペースな個人の世界をファンタジックに描く】千葉県生まれ。千葉大学工学部画像工学科を卒業後の1994年に渡米。ジョージ・ルーカス、ロン・ハワードらを輩出した名門・南カリフォルニア大学(USC)の大学院映画学科に入学する。在学中はCMやPV、映画の撮影助手として働きながら、短編映画の製作などを行なう。2000年1月に帰国すると、自主製作のビデオ撮り作品「星ノくん・夢ノくん」を監督。修学旅行で地球を訪れた宇宙人が帰りの汽車に乗り遅れ、失恋女性の助けを借りて星に帰ろうとする物語が、のちの監督作にも繋がるのんびりムードで展開される。荻上ワールドの原点とも言えるこの作品は、PFFアワード01で音楽賞を受賞。これをきっかけに、PFFスカラシップで製作された「バーバー吉野」(04)で劇場映画デビューを果たした。帰国直後に荻上が感じたカルチャーギャップを反映させた本作は、ベルリン映画祭キンダーフィルムフェスティバルでのスペシャルメンション授与をはじめ、国内外で高い評価を受けた。続く、俳句に賭ける高校生たちの姿を描いた「恋は五・七・五!」(05)は、矢口史靖の「ウォーターボーイズ」(01)を発端とする青春映画ブームの一端に位置づけられ、はみ出し者の高校生たちが一丸となるのではなく、それぞれの個性を極めようとする。06年にはオールフィンランドロケで撮り上げた「かもめ食堂」がヒット。当初は大都市圏での単館公開だったが、女性観客層を中心に評判を呼び全国に拡大公開、キネマ旬報ベスト・テンでも9位にランクインし、一気に知名度をアップさせた。のちにこの作品とコラボレートしたパンのCMがテレビ放送されるほどの人気も集めている。07年には再び小林聡美の主演で「めがね」を発表。10年夏公開の「トイレット」は、カナダ・トロントロケを行なった作品で、唯一の日本人キャストであるもたいまさことは、「バーバー吉野」以降5作目のタッグとなる。【癒しを求める世相にマッチした作風】商業用監督作はまだ5本と決して多くはないものの、その個性溢れる作風は広い支持を得ている。テンポの早い作品が主流を占める中、社会に縛られずに自分のペースで人生を歩む人々を、あえてスローテンポで一種のファンタジーのように描くスタンス。「かもめ食堂」の舞台はヘルシンキの街、「めがね」は南国の海辺、「トイレット」はトロントに移った家と、現実に地続きながら、旅先にも似た非日常的空間での生活を紡ぐ。この独自性が癒しを求める世間のニーズにマッチし、中でも同性である女性の支持を得たことが、今日の地位確立に繋がった。そのスタイルは、起承転結の物語性を持っていた米国仕込みの初期作品と比較して、「かもめ食堂」以降は次第に物語性が希薄になり、起伏の少ない日常を淡々と描写する傾向を強めている。
荻上直子の関連作品 / Related Work
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川っぺりムコリッタ
制作年: 2021「かもめ食堂」「彼らが本気で編むときは、」の荻上直子の原作・脚本・監督で贈る「おいしい食」と「心をほぐす幸せ」の物語。ムコリッタ(牟呼栗多)とは仏教の時間の単位のひとつ、1/30日=48分のこと。北陸の町を舞台に築50年のハイツムコリッタで暮らす4人の日常が織りなされる。出演は「ひっそりと暮らしたい」と引っ越してきた孤独な男・山田に松山ケンイチ、山田との距離感が近い隣の部屋の住人・島田にムロツヨシ、夫に先立たれた大家の南に満島ひかり、墓石の販売員の溝口に吉岡秀隆といった豪華キャストが集結。荻上監督がこれまでずっと描いてきた人と人がつながることで生まれる「幸せ」と「ユーモア」に包まれ、誰かとご飯を食べたくなるハッピームービーだ。70点 -
彼らが本気で編むときは、
制作年: 2017「めがね」の荻上直子監督が5年ぶりに撮り上げた人間ドラマ。母親に育児放棄された11歳のトモは叔父マキオを訪ね、トランスジェンダーのリンコと出会う。母よりも自分に愛情を注いでくれるリンコの存在に戸惑いながらも、三人での奇妙な共同生活が始まった。出演は「秘密 THE TOP SECRET」の生田斗真、「GONIN サーガ」の桐谷健太、本作が映画デビューとなる柿原りんか、「カノン」のミムラ、「人生の約束」の小池栄子、「二重生活」の門脇麦。90点