ツァイ・ミンリャン

  • 出身地:サラワク州クチン
  • 生年月日:1957/10/27

略歴 / Brief history

【無防備な肉体を通して孤独を見つめる台湾の異才】マレーシア、サラワク州クチンの生まれ。1977年に台湾に渡り、文化大学演劇科で映画、演劇を学ぶ。在学中より都会人の孤独を題材とした舞台劇や短篇映画で才能を発揮し、この主題はその後の彼の作品群にも色濃く引き継がれる。卒業後は映画の脚本家、テレビドラマの監督・脚本家として活動し、92年「青春神話」で映画監督デビュー。台湾の大手新聞社・中時晩報主催の映画賞でグランプリに輝いたほか、東京国際映画祭ヤングシネマのブロンズ賞を受賞する。マンションの空き部屋で3人の男女がスリリングに交錯する「愛情萬歳」(94)では、ヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞し、国際的にもその名を馳せた。続く「河」(97)でも冷徹なまでの洞察力は鋭さを増し、ベルリン映画祭銀熊賞を受賞。98年の「Hole/洞」ではミュージカルに挑戦。降り止まぬ雨と謎の奇病が蔓延する近未来、アパートの上下階に暮らす男女が、床に開いた穴を通して愛を育むというラブストーリーの合間に、突如きらびやかなレビューシーンが舞い込む。その大胆なユニークさで新境地を開き、カンヌ映画祭国際批評家連盟賞を獲得した。その後も、台北とパリで男女が孤独な魂を通わせ合う「ふたつの時、ふたりの時間」(01)、武侠映画の名匠キン・フーにオマージュを捧げる「楽日」(03)と続き、「ふたつの時、ふたりの時間」の男女が再会を果たす「西瓜」(05)は、ベルリン映画祭銀熊賞に輝く。初めて故郷のマレーシアを舞台にした「黒い眼のオペラ」(06)を経て、07年には、カンヌ映画祭60回を記念し、世界各国の監督が“映画館”を主題に3分間の作品を競作する「それぞれのシネマ」の中の一篇を担当した。【受賞歴豊富なアジアの名称】ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤンに次ぐ第二次台湾ニューウェーヴの旗手として世界で注目を集め、自らを投影する主人公“シャオカン”の肉体を通して、さまざまな問題を探求する。その役を担う俳優リー・カンションとの親密さはフランソワ・トリュフォーとジャン=ピエール・レオとの関係を彷彿とさせ、「ふたつの時、ふたりの時間」ではトリュフォーの「大人は判ってくれない」を引用しつつレオも出演し、カンションの初監督作「迷子」(03)ではミンリャンがプロデューサーをつとめた。ミンリャンの作品には、シャオカンをはじめ口数の少ない人物ばかり登場するが、長時間廻しっぱなしのカメラが捉える他人には見せられない無防備な彼らの肉体からは、現代人の底なしの孤独やその反動としての愛への渇望がにじむ。そんな独特の演出スタイルは時に難解さを生み、国際的評価の高さに反して台湾国内では興行的に苦戦することもあったが、過激な性描写で物議を醸した「西瓜」は年間興収第1位を記録。妥協を許さぬ姿勢は、最新作「ヴィサージュ」(09)に到るまで貫かれている。

ツァイ・ミンリャンの関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • 無所住

    制作年: 2024
    スミソニアン国立アジア美術館委託作品。ワシントンDCの街やフリーア美術館を舞台に仏僧玄奘の巡礼の旅をインスパイアした修行僧の歩みを捉えたドキュメンタリー。台湾の巨匠ツァイ・ミンリャンの演出、リー・カンションの主演による「行者(Walker)」シリーズの第10作目。2024年11月23日から開催の第25回 東京フィルメックス(2024)特別招待作品。
  • 何処

      制作年: 2022
      2022年11月から2023年1月にかけてパリのポンピドゥー・センターにて開催されたツァイ・ミンリャン監督のレトロスペクティブと展覧会「Une Quete」に合わせて制作された「行者(Walker)」シリーズの第9作。出演はリー・カンション、Anong Houngheuangsy。2024年11月23日から開催の第25回 東京フィルメックス(2024)特別招待作品。
    • あなたの顔

        制作年: 2018
        「愛情萬歳」でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞、カンヌ、ベルリンの受賞歴を誇り、舞台やインスタレーションも手がけるツァイ・ミンリャン監督が、5年ぶりに発表したドキュメンタリー。13の顔を大写しし、顔に表れた各人の生きてきた時間を見つめる。長年ツァイ監督と組んできた俳優・監督のリー・カンションや、台北の市井の人々にカメラを向け、それぞれの顔を1人1カットずつ映し出していく。音楽を坂本龍一が担当。第75 回ヴェネツィア国際映画祭にてワールドプレミア。2019年台北電影節最優秀ドキュメンタリー賞・監督賞・音楽賞、2019年金馬奨最優秀ドキュメンタリー賞受賞。第19回東京フィルメックス特別招待作品。
      • 台湾新電影(ニューシネマ)時代

          制作年: 2014
          1980年代に台湾映画界に新たな潮流をもたらした台湾ニューシネマの誕生30周年を記念し制作されたドキュメンタリー。「悲情城市」のホウ・シャオシェン監督ら各国の映画人や芸術家にインタビュー。後世に与えた影響や、運動の意義などを探る。また、作中にはホウ・シャオシェンやエドワード・ヤン、台湾ニューウェーブの先駆けであるワン・トンの監督作が登場する。劇場公開に先駆け、第10回大阪アジアン映画祭『台湾:電影ルネッサンス2015〈小特集:エドワード・ヤンとその仲間たち〉』にて上映された(映画祭タイトル「光と陰の物語:台湾新電影」)。
        • 西遊

          制作年: 2014
          南フランスのマルセイユを舞台に、僧に扮した男が歩く様を超スローモーションで撮影した短編。監督はツァイ・ミンリャン。同じコンセプトで制作された"Walker"シリーズの6作目。出演はリー・カンション、ドニ・ラヴァン。2014年11月22日より、東京・有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇にて開催された「第15回東京フィルメックス」にて特別招待作品上映。
        • 郊遊 ピクニック

          制作年: 2013
          「愛情萬歳」などで知られる台湾の巨匠ツァイ・ミンリャン監督最後の長編作品。彼の全作品に出演するリー・カンションのほか、ヤン・クイメイ、ルー・イーチン、チェン・シャンチーの3女優が出演。2013年ヴェネチア国際映画祭審査員大賞、金馬奨最優秀監督賞・最優秀主演男優賞ほか、各国の映画祭で受賞多数。第14回東京フィルメックス特別招待作品。旧邦題「ピクニック」。