鈴木瑞穂 スズキミズホ

  • 出身地:旧満州国(現・中国)
  • 生年月日:1927年10月23日

略歴 / Brief history

旧満州国(現・中国)の生まれ。軍人だった父に伴い、満州の安東中学校を卒業後、18歳で終戦を迎え帰国する。京都大学経済学部を中退後の1952年、劇団民藝に参加。久保栄・作『五稜郭血書』52で初舞台を踏み、滝沢修に師事する。54年に製作再開した日活が、俳優不足のため民藝と提携契約を結び、舞台活動と並行して日活のプログラムピクチュア数本に出演。最初の映画は58年の若杉光夫監督「姿なき顔役」の刑事役で、翌59年の中平康監督「その壁を砕け」では裁判劇の検事役を演じる。舞台で頭角を現すのは60年代からで、魔女裁判事件を題材にしたアーサー・ミラー作『るつぼ』62に主演。独立心の強い農民ジョン・プロクターを演じ、芸術祭奨励賞を受賞する。民藝時代の主要作品はほかに、『火山灰地』61、『冬の時代』64、『想い出のチェーホフ』68など。64年、日活の熊井啓第1回監督作品「帝銀事件・死刑囚」に出演。民藝でも同じ題材を上演予定だったが戯曲が完成せずに中止、キャストの多くがそのまま映画に移ったもので、内藤武敏とともに事件の真相を追う新聞記者を好演する。続く熊井監督「日本列島」65も宇野重吉ら民藝の俳優陣が揃った作品で、戦後の不可解な事件を捜査する黒崎警部補役を演じた。押し出しのある風貌と演技が当初から社会的責任のある役にはまってきたが、熊井作品2本でそのイメージが定着。山本薩夫監督「にっぽん泥棒物語」65、「白い巨塔」66などに続けて出演し、重厚な社会派作品に欠かすことのできない俳優となる。山本監督「座頭市牢破り」67のような時代劇でも民藝で培ったリアリズム演技を活かし、合理的な農村指導者を堂々と演じる。差別問題に踏み込んだ熊井監督「地の群れ」70では、未開放部落と関わり合いながら無力なアル中の診療所医師を演じ、異色の役とする。71年に民藝の運営をめぐる内部対立が起こり、佐野浅夫、佐々木すみ江、下條正巳ら多くの俳優が退団。鈴木も民藝を去り、72年に演出家・早川昭二と演劇集団銅鑼(現・劇団銅鑼)を結成する。劇団名は戦前の築地小劇場が開演時に鳴らした銅鑼にちなみ、あくまでも新劇の理念を旗印とする。第1回作品はアーサー・ミラー作『二つの月曜日の思い出』。鈴木は82年まで代表をつとめた。その傍ら、70年代は映画で刑事、検事、弁護士などを数多く演じ、テレビドラマでも同様に、日本テレビ『太陽にほえろ!』、TBS『Gメン'75』『水戸黄門』など1話完結シリーズの時代劇、刑事ものに多数ゲスト出演する。深作欣二監督「仁義なき戦い・頂上作戦」74の新聞社デスク役、「同・完結篇」74の刑事役での連続出演は、短い場面で直ちに観客が背景まで汲み取れるタイプキャストの強みの好例。日本映画界全体が大作指向だった時期は、森谷司郎監督「日本沈没」73の科学技術庁長官、舛田利雄監督「ノストラダムスの大予言」74の環境庁長官、山本薩夫監督「皇帝のいない八月」78の自衛隊幕僚など、役柄も風格に合わせて大きくする。しかし大作映画の波が引くと要求される演技を絶妙に変化させ、藤田敏八監督「十八歳、海へ」79でエリート意識の塊の教授を機械仕掛けのように見せて戯画化。山田洋次監督「遙かなる山の呼び声」80では高倉健の元教師の兄を滋味深く演じる。80年代以降も舞台中心に活動する一方、松山善三監督「典子は、今」81、今井正監督「ひめゆりの塔」82、橋本幸治監督「ゴジラ」84などの映画や、NHK『獅子の時代』80、『武田信玄』88、『八代将軍吉宗』95、『葵・徳川三代』00、TBS『スチュワーデス物語』83、『誘惑』90、また各局の2時間サスペンスなどで所を得た助演を見せる。加えて、朗々とした張りのある美声という無二の個性を持ち、山本薩夫監督「戦争と人間」70~73をはじめ、ドキュメンタリー番組などのナレーションでも活躍。テレビの洋画劇場では多くのハリウッドスターの声を吹き替える。近年も懐の深い存在感は健在で、篠原哲雄監督「真夏のオリオン」09で海軍潜水艦の乗組員だった戦時の記憶を語る老人役を好演している。舞台は、2006年の『女相続人』『夜の来訪者』の演技で紀伊國屋演劇賞を受賞。ワークショップなど後進の指導も積極的に行なう。

鈴木瑞穂の関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • くじけないで

    制作年: 2013
    90歳から詩作をはじめ、上梓した『くじけないで』『百歳』(飛鳥新社刊)がベストセラーとなった柴田トヨ。激動の時代を生きてきた彼女の言葉に多くの人が勇気づけられる中、2013年1月に101歳で他界した柴田トヨの半生を描く。監督・脚本は「神様のカルテ」「60歳のラブレター」の深川栄洋。温かく心に沁みるような言葉を紡ぐ柴田トヨを「引き出しの中のラブレター」「蝶々夫人」の八千草薫が、彼女に詩作を勧める息子を「ストロベリーナイト」「プロゴルファー織部金次郎」シリーズの武田鉄矢が演じる。ほか、「少年H」の伊藤蘭、「武士の一分」の壇れい、「うさぎドロップ」の芦田愛菜らが出演。
    80
  • もういいかい ハンセン病と三つの法律

    制作年: 2012
    “病とともに安心して生きていける社会を作るために、ハンセン病問題は繰り返し語らなければならない”という思いの下、ハンセン病問題の実態を描いたドキュメンタリー。患者の証言などから、忘れられつつある負の歴史を記録してゆく。語り手は「洋菓子店コアンドル」の鈴木瑞穂。監督は「フランドン農学校の尾崎さん」の高橋一郎。
  • 洋菓子店コアンドル

    制作年: 2010
    東京の洋菓子店を舞台に、スイーツを通して出会った人々の挫折と再生を描く物語。監督は「半分の月がのぼる空」の深川栄洋。出演は「パーマネント野ばら」の江口洋介、「雷桜」の蒼井優、「劇場版TRICK 霊能力者バトルロイヤル」の戸田恵子、「脇役物語」の江口のりこ、「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」の尾上寛之、「真木栗ノ穴」の粟田麗など。
    70
  • 真夏のオリオン

    制作年: 2009
    池上司の小説『雷撃深度一九.五』を原作に、「亡国のイージス」の福井晴敏が監修・脚色を担当した戦争アクション。米軍人が保存していた日本人女性作曲の楽譜をきっかけに、第二次世界大戦で戦った日本軍潜水艦と米軍駆逐艦のドラマが明かされる。監督は「山桜」の篠原哲雄。出演は「ミッドナイトイーグル」の玉木宏、「ハンサム☆スーツ」の北川景子。
    60
  • 母べえ

    制作年: 2007
    日本が太平洋戦争へと歩みを進めていく不穏な時代を舞台に、情愛深い家族の姿を描いた感動作。原作は野上照代のノンフィクション小説。出演は「北の零年」の吉永小百合、「サッド ヴァケイション」の浅野忠信、「武士の一分」の檀れい。監督は「武士の一分」の山田洋次。
    70
  • 北辰斜にさすところ

    制作年: 2007
    戦禍による永遠の訣別を挟みつつ、旧制高校で学んだ学友たちの在りし日の姿と現在の姿を交互に描く骨太な群像ドラマ。主役である上田勝弥を演じるのは自身も中国への出征経験を持つ三國連太郎(「釣りバカ日誌」シリーズ)。勝弥の先輩であり七高の名物男としてその名を轟かせた草野正吾には緒形直人(「草の乱」)が扮している。監督は「大河の一滴」の神山征二郎。
    90