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  • 特別対談:麻倉怜士(オーディオ・ビジュアル評論家)×樋口真嗣(映画監督) ブルーレイを進化させた「Ultra HD Blu-ray」(以下、UHD)が2016年に登場してから丸2年。現在、300タイトル以上が揃い、市場規模も順調に推移している。新作はもちろん、昨年末には製作50周年を記念し新たにプリントされた70ミリフィルムを基に製作された『2001年宇宙の旅』UHD版がリリースされ話題になるなど、強力なビッグタイトル、画質力・音質力・作品力の高い作品が市場を牽引している。 そこで、自身も『シン・ゴジラ』のUHD版をリリースした樋口真嗣監督と、オーディオ・ビジュアル評論家の麻倉怜士氏に最近の気になるソフトをご用意いただき、4Kが作り手あるいは観客にどんな変化をもたらしたのか、その実力について語り合っていただいた。 昨年話題を集めた『2001年宇宙の旅』の実力 麻倉 『シン・ゴジラ』で樋口監督もUHD版を作られましたよね? 樋口 原版が2Kなんですけどね。4Kマニアになる前だったので、今だったらもっと取り組み方が違うと思います。 麻倉 その後、4Kマニアになった? 樋口 はい。マッハ掌返しで宗旨替えです(笑)。 麻倉 では、まずは『2001年宇宙の旅』から。昨年は製作50周年で、国立アーカイブで70ミリ上映、NHKで8K放送、年末には4KのUHD発売と、まさに「2001年祭り」でした。まずはブルーレイと4K版の違いを観ていきましょう。 樋口 おぉ、これを観たらブルーレイがVHSの3倍モードにしか見えなくなりますね。元に戻れなくなる。どんなに頑張っても無理です(笑)。 麻倉 部屋の入り口に書かれた文字もはっきり見える。トイレの使い方が真面目に書かれていて、美術の仕事がよく分かります。 樋口 実はこの作品、恐ろしいほどに写真アニメみたいな作り方をしているんです。いくつかの宇宙船(スペースシャトル・オリオン号や月面着陸船エアリーズ号など)はミニチュア模型を撮影した写真に影を描き足して線画台で再撮影したもの。動くと普通ズレがあるんですが、これは全くない。離れても影や奥の翼の関係が変わらないでしょう? 4Kで見ちゃうとサルが投げた骨が進化する(笑)。人工衛星も板にしか見えない。これまで誤魔化しがきいていたのが分かってしまった。これは衝撃でした。 麻倉 宇宙船の中の人間も非常にクリアで、音も力強く、リアルになって背景の音がよく聞こえます。 樋口 リストアの技術もあるのでしょうが、それに対応できる受け皿が凄い。50年前の映画なのにそれでもまだ十分耐えられる。 麻倉 65ミリのフィルムですから情報量も圧倒的。宇宙船内は全部白ですが、奥行き感があって壁と床の白が違う。赤い椅子も布の質感がよく出ていて、作り込んでいるのが鮮明に分かる。映画がまさに迫ってくる特徴があります。 樋口 恐らく撮り方も広角レンズを使い、パンフォーカスしているから情報も余すことなく入っているんでしょうね。 麻倉 製作者の想いが4Kから伝わってくる。 樋口 映画が選ばれるんですよ。4Kに選ばれる映画がこうして観られるんじゃないかって。 劇場版よりUHD? 『ハン・ソロ』での発見 樋口 『ハン・ソロ』も実は劇場で観た時よりも4Kのブルーレイで観た時の方が面白かったんです。 麻倉 それは面白い経験ですね。4Kの劇場は非常に少ないですから、4Kで撮られた映像もほとんどすべて2Kになる。本物を観たいならブルーレイの4K、という不思議な話になります。では改めて『ハン・ソロ』を観てみましょう。 樋口 今、ハリウッドで映画は作られず、東欧とかカナダとか天気がそんなによくないところで撮られるんです。だから全体的にコントラストがない暗い映画が多くて。 麻倉 2Kでもレンジがあると解像度とは違う良さがあるけど、それが天候の関係でできないとなると、やっぱり限界が出てきますね。 樋口 この映画の薄暗い感じ、小道具の作り込みが、劇場で観た時は全然伝わってこなかった。4Kで観て、ようやくその意図が分かったみたいな。 麻倉 逆転現象ですね。今まで劇場が上で家庭用は下みたいなヒエラルキーがあったけれど、ある部分においてはホームシアター・ファーストになっていて、劇場で観るよりパッケージで観た方が監督の意図が伝わってきますね。 樋口 劇場によってはIMAXになったり、ドルビービジョンが入ったりと品質は上がっていますけど、すべてがそうとはいかない…。 麻倉 だから品質というか、そもそも大元のクオリティはどうなのみたいなところが今、問われている。あと、劇場はなかなか音質まで再現できない。ホームシアターはちゃんとしたオーディオ装置にすると、劇場以上の音が出ます。なおかつ繊細な味わいがある。 樋口 『ハン・ソロ』は画質云々じゃなく、4Kで初めて作品の良さが伝わったんですよね。もちろん劇場で観てほしいんですが、観逃しても意外といいことあるかもと。配信だけには負けないぞ、みたいな(笑)。 麻倉 『マリアンヌ』にも凄く分かりやすいシーンがあるんです。SDRという通常のダイナミック・レンジは窓の外の景色が飛んで白くなるんですが、HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)にすると映る。ちゃんと階調が出るのがHDRの良さ。4Kだけにあるメリットです。そのお陰で、画のダイナミックさ、カラーの良さが出る。そもそも本作は8Kで撮影されたもので、それを4Kで再現。木の枝ぶり、生け垣、芝生、太陽の光など自然描写の細かいところだけでなく、奥行き感、人物の立体感などが凄い。頬も滑らかに膨らんでいる。これが8Kの良さじゃないかな。 樋口 監督はロバート・ゼメキス。相変わらず実験的なことをしているんですね。 麻倉 カメラ的に言うと最高8Kで、それぞれコンセプトに合った、シーンに最適なカメラで撮ったと書いてありました。もう一つ、高解像度系ではIMAXで撮影された『ダンケルク』ですね。 樋口 ほとんど4:3に近い画角。親子が乗っている船だけが16:9で、それ以外はIMAXのフルで撮っています。 麻倉 今のフィルムで撮った画というのも生々しい。デジタル的なキリキリ感がなく、バランスもいい。海のシーンも本当に遠くまで見渡せ、光の反射がきれいですね。 樋口 やっとここまで到達したリッチな感じ。 麻倉 4Kソフトには『2001年宇宙の旅』のような昔の名画を復刻したものもあるし、『ダンケルク』のように今撮った昔の映画のようなフィルムもある。『マリアンヌ』のようにデジタルの極限の8Kまでいくとアナログになるみたいな、いろんなものが家庭で観られるのも楽しみです。 サルベージ感覚で観る90年代作品の味 樋口 今度は『ターミネーター2』を観てみましょう。4Kまでくると、スタジオマークはもっとちゃんとした方がいいんじゃないかなぁ。意外と低い解像度で作られていますね。 麻倉 ですが、本篇の画像はきれいですね。ちょっとびっくりだな。昔のイメージとは大違いです。 樋口 本作もサルベージする感じというか、発見がある。もの凄く古い映画でもないし、新しくもない。『スリー・ビルボード』あたりと見比べると、画作りが変わったんだなと思います。これはかなりの発見ですが、昔シャープに見えていたものが既にクラシック。当時はCGが凄いと思ったけど、今観るとCGじゃないところが凄く見える。シュワルツェネッガーがここまで自分でやっているんだとか。サラウンドの作り方も空間を作るんじゃなく、わざとらしく後ろに回しています。 麻倉 こってりとしたいい画ですね。SDRだからアナログですが、結構大画面にしても観られます。画素を超越した世界。凄くきれいにリストアしています。ノイズも少ない。 樋口 ある意味、ネガを持ち込む形としては優秀な優等生というか。先日『マトリックス』を4Kで観ましたが、蔵から出すにはまだ早すぎた。まだすっぱみ、雑味が多くて。『ダイ・ハード』とか、この時代くらいの作品がいいですね。 麻倉 今度は『劇場版 あしたのジョー2』を観てみましょう。 樋口 逆にアニメって怖いですよね。最初に『コブラ』が出ましたが粗さも再現しすぎて驚きました。『あしたのジョー2』はめちゃくちゃきれいですね。凄いな。撮影素材を観ているようです。 麻倉 やっぱりネガから再制作したからですね。ディテールはそんなに差がないかもしれませんが、レンジとか色のクリアさは凄い。 樋口 美術監督の小林七郎さんの、リアルというのとまたちょっと違うタッチの強さ。色使いも大胆でかっこいい。海の描写もダイナミック。あの波のキラキラは描いているというか、クシャクシャにしたアルミ箔を2枚重ねたマスクの下に引いてやっているんです。昔は独自の美意識みたいなのがあった。 麻倉 出崎統監督の考え方とかコンセプト、色使いがよく分かります。 樋口 昔の劇場版アニメって信じられないぐらいこだわって作られているのだからどんどん4K版を出してほしいです。我々が買い支えるので(笑)。 麻倉 では『ラ・ラ・ランド』に行きましょう。本作には面白い話があって、ブルーレイの日本版がDEGジャパン主催の第10回ブルーレイ大賞・審査員特別賞を受賞。解像度はやっぱり4Kの方がいいんですが、S/Nは4Kよりいい。 樋口 そんなことってあるんですね。 麻倉 4Kは10ビットですが、ブルーレイはMGVCという特別なコーデックなので12ビットが再生できる。4Kはアメリカのマスターそのまま使っていますが、2Kは日本の独自性を出そうと。ある意味4Kを追い越すほどの色の透明感。解像度を観るのは4Kディスク、色を観るならブルーレイの2Kディスクで。 樋口 確かに、全然違う。この追い込み方は4Kでできなくもないんですよね? 麻倉 3Dのディスクにビット数を与えたのがMGVCなので、3Dが初めからない4KのUHDはそれができないんです。 樋口 つまり、ブルーレイは3D用の帯域が空いているから可能になったと。勉強になります。 麻倉 はい。 フィルムこそ永遠 日本映画リストア版への期待 麻倉 では今後、樋口監督は製作において4Kをどう使っていこうとお考えですか。 樋口 自分のこととなると、全く逆のことを考えてしまうんですよね。解像度をどこまでかけずにやろうかとか。iPhoneを4Kでやっても大丈夫かな、みたいな。 麻倉 それはありますね。今、スマホで撮っておいたらどうだろうかとか。東北新社がスマホで料理番組を4Kで撮ったんですが、結構きれいでした。 樋口 それでしか撮れないものの方が面白いこともあるんですよ。 麻倉 制約があるうえでのクリエイティブって凄く重要ですからね。あとフィルムで撮った作品が増えているってことは、なんだかんだ言ってもフィルムの解像度が一番凄いってことになる。4Kも16Kの時代になったら、なんだということになり、その点、フィルムならもともとの情報量がありますから。 樋口 『ターミネーター2』もそうですが、フィルムで撮ったところは今観ても大丈夫ですが、CGだと陳腐に見える。 麻倉 CDもそうですね。80年代、CDは凄いと言われたけど今となってはね。むしろハイレゾ時代になって、CDの音源は変えられないから困る。一方アナログテープで録音したものには凄い情報量が入っているからハイレゾに直接行く。それと同じ現象が映像にも起きている。『2001年宇宙の旅』がまさにそう。情報量があるから16Kにも耐えられるんじゃないかな。フィルムこそ永遠ですね。 劇場は何回もデュープを重ねているわけですから、アナログ的な劣化がある。だから4Kで観ると、オリジナルはこうだったのかみたいな驚きと発見がある。要は劇場を追憶するんじゃなく、劇場にない新しい価値をパッケージで見出せる。それが大きなポイントじゃないですかね。 樋口 だから僕の気持ちとしては、クリストファー・ノーランがやったように『2001年宇宙の旅』のような過去の名作をリストアしたい欲の方が強い。新しい映画を作るより、昔の映画をどうやってちゃんと残すかって方に興味がある。しかもこのあたりの古い映画にはまだまだ発見があるような気がします。 麻倉 確かに、まだ70%ぐらいしか出ていないんじゃないかとかって思います。新しい目でリストアすると、また発見できますよ。樋口監督がリストアするとブランドになりますね。 樋口 市川崑さんの『細雪』はネガの状態が悪いんですね。80年代の映画ってフィルムの最高感度が200で400まで増感現像しているんです。だからグレイングがざらざら。つるつるにしたのがいいのか? って疑問もありますが、もうちょっと劇場で観た時の絹目みたいな感じにならないのかなとか。フィルムでもマスターが最悪な時代ってあるんですよ。逆に60年代は感度の低いフィルムでかなりライティングして撮っているのでネガに入っている情報量が全然違う。そういうのをひっぱり出しても面白いだろうし。 麻倉 『山猫』『ウエスト・サイド物語』『サウンド・オブ・ミュージック』など60年代の65ミリで作られたものも物凄い情報量ですからね。 樋口 あのリッチさは凄い。物量が違います。 麻倉 画質の前に、スタッフからして凄くお金がかかっている。日本映画もぜひ4Kのリストアで観たいですね。 (麻倉怜士氏ご自宅にて/使用機種:パナソニック「DP-UB9000」、D-ILAプロジェクター「DLA-Z1」) 文=岡崎優子 この記事は『キネマ旬報』2月下旬ベスト・テン発表号に掲載。今号では『2018年 第92回キネマ旬報ベスト・テン&個人賞』を発表。受賞者のインタビューや2018年ベスト・テンの分析座談会などを掲載している。 プロフィール 麻倉怜士(あさくら・れいじ)/1950年生まれ、岡山県出身。73年に横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社し、『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。91年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。新聞、雑誌、インターネットなどで多くの連載を持つ。津田塾大学講師、早稲田大学エクステンションセンター講師、UAレコード副代表。大の映画、Blu-ray、UHD Blu-ray好き。 樋口真嗣(ひぐち・しんじ)/1965年生まれ、東京都出身。高校卒業後、東宝撮影所特殊美術課特殊造形係に入る。同年、ガイナックスに参加。95年 『ガメラ 大怪獣空中決戦』で特技監督を務め日本アカデミー賞特別賞を受賞。監督作は『ローレライ』(2005年)『日本沈没』(2006年)『隠し砦の三悪人』(2008年)『のぼうの城』(2012年)『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』シリーズ(2015年)『シン・ゴジラ』(2016年)など。18年、TVアニメ『ひそねとまそたん』に総監督として携わる。 「Ultra HD Blu-ray」とは? DVD、ブルーレイに続く映像パッケージメディア。形は同じく12㎝径のディスクだが、最大容量はブルーレイの2倍にあたる100Gバイトと、より優れた画・音質で映画を収録できる。Ultra HD Blu-rayはスペック上、4つの組み合わせ(4K/HDR、4K/SDR、2K/HDR、2K/SDR)が可能であるが、中でも、4K/HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)は、映像の美しさを決める解像度(映像のきめ細かさ)、輝度(再現できる「光」のバリエーション)、色域(再現できる「色」のバリエーション)の3要素でブルーレイをはるかに超えている。 ■対談で鑑賞していただいた「4K Ultra HD Blu-ray」ソフト一覧 『2001年宇宙の旅 日本語吹替音声追加収録版 <4K ULTRA HD&HDデジタル・リマスター ブルーレイ>』6990円+税 発売・販売/ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー 4K UHD MovieNEX』8000円+税 発売・販売/ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン 『マリアンヌ <4K ULTRA HD+Blu-rayセット>』5990円+税 発売・販売/NBC ユニバーサル・エンターテイメント 『ダンケルク <4K ULTRA HD&ブルーレイセット>』5990円+税 発売・販売/ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 『ターミネーター2 4K Ultra HD Blu-ray』6800円+税 発売・販売/KADOKAWA 『ダイ・ハード 製作30周年記念版 <4K ULTRA HD+2Dブルーレイ/2枚組>』5990円+税 発売・販売/20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン 『劇場版 あしたのジョー2 <4K ULTRA HD>』7800円+税 発売・販売/20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン 『ラ・ラ・ランド <4K ULTRA HD+本編Blu-ray+特典Blu-ray>』7800円+税 発売/ギャガ 販売/ポニーキャニオン
  • 『半世界』で炭焼き職人の高村紘を演じた、稲垣吾郎。公開は『クソ野郎と美しき世界』(2018年)が先だったが、撮影はこちらが先行していた。独立後初めての映画で、映画主演も『笑の大学』(2004年)以来、久しぶり。美しく優雅な男性や、エキセントリックな役を演じることが多かった稲垣だが、『半世界』では土にまみれ、灰にまみれ、日常にあくせくする中年男性としてそこに存在している。映画俳優として新たな地平に立った彼が、いま見据えるものとは? 主演でしか味わえないこと 阪本順治監督はこの作品をスター映画と考え、稲垣主演を想定して脚本を書いたという。 稲垣:「すごく嬉しいです。阪本監督に書き下ろしていただいて。主演でしか味わえないことっていうのはやはりありますし。一つの作品をみんなで作り上げるという意味では一緒なんですけれども、主役とそれ以外では、役者としての味わい方がどこか違いますよね。脇だと、人物がクローズアップされない反面、自分でイマジネーションを広げたり、ちょっと冒険もできる。一方、主人公は軸になっている分、細かく描かれているので、向き合い方が変わってくる。楽しみ方が異なるというか」 紘は南伊勢の山中でひたすら炭を焼く。実直だが妻や思春期の息子になかなか向き合おうとしない、無骨な男だ。阪本順治は稲垣に会ったとき「実は素朴な人」と感じたという。 稲垣:「そう言われることもあるんです。パブリックなイメージでいうと、今回のような土臭い山男というものは僕にはあまりなかった。でも、人は多面性があると思うし、本当の都会の人、洗練された人というのはいないと思うんです。うまく言えないですけど、みんな動物だし、地球から生まれてきているし(笑)。人はだんだん環境や趣味嗜好によって洗練されていくだけなので、素朴だと言われるのは全然不思議じゃない。観る人にはちょっと意外なヴィジュアルかもしれないですが、そこも今回は見どころだと思うし。でもこの映画は『ここが見どころだ』と定まらない感じが、また見どころだと思うんです。観る人の目線によって、家族の話にも見えたり、男の友情の話にも思えたり、夫婦の話にも思えたり。中年の男がこれから人生どう生きていくのか、みたいな話でもあり」 阪本組はみんながみんなを尊重し合っている 筆者は最近身内を失くしたせいか、実は冷静に観られない場面もあった。映画について書くことを生業としているのだから、あまり個人的な経験に寄り過ぎた見方をしないようにと思ってはいるのだが、生々しい感情の蓋が開いてしまった。 稲垣:「でも、映画ってそういうもんですよね。その人の観る時によって、見え方とか感じ方は違うし、だから色褪せないものなんだと思う。作品って、音楽でも何でもそうですよね。個人的な見方をしていいと僕は思います。映画というのは、そのためにあるものだと思いますし」 確かに、個に訴える部分のない映画など、やはり面白くない。そういう、少しいびつさのある映画を、阪本順治も撮り続けている。 稲垣:「やっぱり面白いですね、映画というのは。特に阪本組は独特というか。僕は他をそんなに知っている訳じゃないですけれども、他の組だと監督とカメラマンが絶対で、それ以外のスタッフが従う感じがしなくもない。でも阪本組には、そういう順番がないんです。どの部署もそれぞれに主張ができる現場で、光の職人、映像の職人、美術の職人、それぞれがプロの職人たちで、みんながみんなを尊重し、尊敬し合っている。俳優も演技の職人。そうした経験は僕にとってはスペシャルでした」 インタビューの続きは『キネマ旬報』2月上旬号に掲載。今号では『半世界』の巻頭特集をおこなった。稲垣吾郎、長谷川博己、渋川清彦のインタビューや阪本順治(監督)らによる座談会、作品評を掲載している。(敬称略) 『半世界』 2018年・日本・1時間59分 監督・脚本/阪本順治 出演/稲垣吾郎、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦、小野武彦、石橋蓮司 配給/キノフィルムズ 2月9日(土)よりTOHO シネマズ 日比谷ほか全国にて 取材・文=石津文子/制作=キネマ旬報社
  • 若尾文子、岩下志麻、桃井かおり、原田美枝子に宮沢りえ。「キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞」を3回受賞した歴々に、このほど安藤サクラも名を連ねた。しかも2010年代の7年間(2012~2018年)だけで、3度目の栄冠という快挙。60年代に若尾文子が8年間で同じ記録を達成していることを踏まえても、名優と呼んで差し支えない域に達した感がある。だが、本人は自身のことよりも夫である柄本佑の「主演男優賞」受賞に、顔をほころばせた。 安藤サクラ(以下、安藤):「すっごく、うれしかったです。それは夫婦で受賞したから、ということではなくて。自分の受賞は聞いた瞬間も、少し時間が経って落ち着いてからも、なかなか120%素直な喜びにはならないんです。何というか…頑張って頑張って掘っていって、耳かきに乗るくらいの大きさの素直なところを見つけて喜べるという感じなんです。受賞の連絡が来た瞬間は、どうしてもどこか他人事みたいで。でも、表紙撮影の相手として『主演男優賞は柄本佑さんです』と教えられた時は、もう飛び上がって喜びました。それこそ120%以上の、ただただ、めでたい気持ちになりました。夫ではありますけど、私は柄本佑の超ファンでもあるので。すぐ柄本のおとうさんに電話をして受賞の報告をしました。本来は人に喋っちゃいけないのかもしれないんですけど、大興奮してしまって。家族みんな、とっても喜んでくれました」 夫婦での表紙撮影を振り返る ふだんから「取材の場で気持ちを言葉にするのに苦労する」と話すように、独特の間と言語感覚で思いを吐露していく。その上で、随所にユーモアをにじませるのが、“サクラ節”。史上初の夫婦での主演賞受賞の表紙撮影を、はにかみながら振り返った。 安藤:「娘を連れて実家近くで撮影したのですが、なんせ家の目の前なんで、その間、柄本のおとうさんが娘を三輪車に乗せて一緒に現場をウロウロしていて。それは、なんだか不思議なおもしろい光景でした(笑)。撮影は難しかったです。夫婦感満載な写真になっても恥ずかしいですし、かといって気取って2人で写るのも照れくさいですし。でも滅多にない貴重な撮影なのでお互い一張羅でのぞみました。張り切って、前日に夫婦でスーツを買いに行って、私は(角替)和枝さんの着物を着させてもらって。幸せな時間でした」 インタビューの続きは『キネマ旬報』2月下旬ベスト・テン発表号に掲載。今号では『2018年 第92回キネマ旬報ベスト・テン&個人賞』を発表。安藤サクラはじめ、受賞者のインタビューや2018年ベスト・テンの分析座談会などを掲載している。(敬称略) 取材・文:平田真人/撮影:平岩享/制作:キネマ旬報社
  • 音楽の力で今冬を席巻した『ボヘミアン・ラプソディ』。Netflixをはじめとする配信による新作公開の増加。映画の共通体験の場としての劇場のあり方が問われる中、ハリウッドの映画人たちはどこへ向かうのか? (C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved. 2018年のアメリカ映画を振り返るにあたり、日本でも予想外の大ヒットとなった2本の音楽映画のことから始めないわけにはいかないだろう。1本目は『グレイテスト・ショーマン』(日本公開2月)、そしてもう1本は『ボヘミアン・ラプソディ』(日本公開11月)である。音楽を中心に据えた伝記映画というだけでなく、特に本国アメリカでは公開前、批評家たちからの評価が低く、興行的に失敗することが予想されていたという点も共通している。 そして、もう一つ共通しているのは、特に日本で「応援上映」などと呼ばれる観客参加型の形式が観客動員に拍車をかけたということである。これはアメリカ映画ではないが2017年の年末に公開されて18年に入っても息の長いヒットを続けた『バーフバリ 王の凱旋』にも共通して言える。また日本映画『カメラを止めるな!』の、こちらも予想外の大ヒットも、他の多くの見知らぬ観客たちと感動を共有するという劇場ならではの楽しみが再発見されたことが大ヒットの要因であると言えるだろう。 配信による新作の増加 この現象と対照的なのが、Netflix、Amazon Prime など配信による新作の増加である。コーエン兄弟の「バスターのバラード」、アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』など、劇場公開されていれば当然キネ旬のベスト・テンにも入っていたであろう作品が、ある日突然(という感じで)配信開始となり、自宅でのんびりと(あるいはダウンロードして、どこででも)鑑賞できるのである。 筆者はどちらの作品も心から堪能したのだが、やはりこれは劇場のスクリーンで観たかったよなあ、と思ったのも事実である。 動画配信の浸透は映画館文化にとって脅威であることは間違いないにしても、『ボヘミアン・ラプソディ』、『グレイテスト・ショーマン』によって劇場での鑑賞体験の素晴らしさを再発見、ないし新発見した観客たちをどうやってまた劇場に帰ってこさせ続けるかが、アメリカ映画には限らないが、これからの課題となるだろう。 DVDで手軽に観られる『遊星からの物体X』(1982年)の劇場リバイバルや『恐怖の報酬』(1977年)ディレクターズカットの本邦劇場初公開が成功したことからも、映画館で鑑賞体験を共有するという喜びは、今後も長らく愛され続けると考えたい。 記事の続きは『キネマ旬報』2月下旬ベスト・テン発表号に掲載。今号では『2018年 第92回キネマ旬報ベスト・テン&個人賞』を発表。受賞者のインタビューや2018年ベスト・テンの分析座談会などを掲載している。 文=鬼塚大輔/制作:キネマ旬報社
  • 「あなたはこんなにも魅力的です、ずっと愛していました」…松本花奈監督から主演の橋本愛へ、そして映画から観客へ、そのメッセージを伝えるためのラブレターのような、わずか8分の作品『愛はどこにも消えない』。『21世紀の女の子』のうちの一篇である。この映画は、80年代後半~90年代生まれの監督15人が集結、“自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーがゆらいだ瞬間が映っていること”を共通のテーマに8分以内の短篇で表現するオムニバス作品。 女優陣を代表して橋本愛にこの作品について質問した。聞き手は、『21世紀の女の子』のうちの一篇『恋愛乾燥剤』にも出演しているゆっきゅん。橋本愛が〈この映画について考えていること〉に迫る。 ある意味、劇薬だし、武器でもある映画 ―橋本さんは『21世紀の女の子』全篇を観て、どんな感想を持ちましたか? 橋本愛(以下、橋本) まず『21世紀の女の子』という言葉にゾッとしました。中心になった山戸結希監督が、当たり前すぎてみんなが見ないでる言葉に目を向けて、それを発信している、ということに。そして、観終わった後に〈世界の見え方が変わる〉ってこういうことなんだな、と思いました。そう思えるのは〈世界の変革〉だと思うし。世界が変わるとしても一人一人が変わっていくしかないと思うので、『21世紀の女の子』は〈鑑賞した一人一人が変わってしまう映画〉だと思うんです。ある意味、劇薬だし、武器でもある映画じゃないかって。 ―「21世紀の女の子の、女の子による、女の子のための、とびっきりの映画たち」というコンセプトに関しては、どんな思いがありますか? 橋本 確かに映画の現場はスタッフも監督も男性ばっかりなんですけど「女性監督」という言葉も好きではないんです。自分のことでも「女優」という言葉は好きではなくて、「役者」「俳優」と言っていたんです。でも、最近は照れずに「女優」と言えるようになってきました。人間としての上下ではなく、各々の性質として男と女は同じであることは絶対にないという感覚があって、女であることを剣にも盾にもして、振りかざして生きようと思っています。〈女であることの強さ〉がもっと認知されたらいいなと思います。 そして、女性が作った本や漫画や音楽と同じシンパシーが、映画を観る、という体験で、ここまでグッときたことは今までなかったですね。「映画は、撮り尽くされた」とか言うじゃないですか。でもまだこんなに、新しい視点もあるし、新しい景色もあるし、新しい思想もあるんだって思いました。本や漫画や音楽では当たり前のことなのに! 山戸監督の〈映画を信じる力〉に圧倒された ―小説や漫画や音楽みたいに個人や少人数で作れるものでなく、大人数の集団で作らなければならない映画では、なかなかこういうものが現れづらかったのかもしれないですね。その『21世紀の女の子』を企画/プロデュースした山戸結希監督について、どんな思いを持っていますか? 橋本 『おとぎ話みたい』(2014年)を拝見して、本当に凄い映画だと思って、ずっと山戸監督と仕事をしたいなと思ってきました。〈映画でしかできないこと〉を実現するために戦っている人だと思うし、山戸監督の〈映画を信じる力〉に圧倒されて、私も姿勢を正しています。 ―橋本さんは松本花奈監督が監督されたパート、『愛はどこにも消えない』に主演されました。脚本を読んで「演じてみたい!」と思った決め手はどこでしたか? 橋本 主人公が大人にはなりきれず、子供の領分に片足を突っ込んだまま、曖昧に青春を生きているところが今の自分とすごく重なりました。こんなに自分とリンクするって、なかなかないことなんです。 でも私と違うところもあって、主人公は向こうからの「好き」があると自分も「好き」になるんですけど、私は向こうの気持ちは関係なく自分から「好き」になるんです。そして私なら「好き」になったら「好きを返してほしい」ではなくて「幸せになってほしい」と思うんですけど、彼女は「私を幸せにしてほしい」という思いが強い。その心理を摑むのはなかなか大変でした。けれど、実は私が格好つけているだけで、本心では彼女と一緒かもしれないと思ったりして(笑)。たった8分の短篇ですけど、とても濃密な作品だと感じました。 インタビューの続きは『キネマ旬報』2月上旬号に掲載。今号では『21世紀の女の子』の特集をおこなった。橋本愛、山戸結希(監督/企画・プロデュース)のインタビューや戸田真琴による作品評を掲載している。(敬称略) 聞き手:ゆっきゅん/撮影:金子山/構成・制作:キネマ旬報社