撮影:島田香  ヘアメイク&スタイリスト:川岸みさこ

武田鉄矢が原作・脚本・主演、さらに第2作からは監督も兼ねた人気シリーズ『プロゴルファー織部金次郎』全5作(1993~98年)が6月にBS松竹東急で一挙に放送されている。このシリーズは17年間1勝もしていないプロゴルファーの織部金次郎が、下町の仲間の応援を受けて、トーナメントで奮闘する姿を描いた人情コメディ。映画の企画は、武田鉄矢自身が考えたものだ。
「この頃バブル経済がはじけて、人生で負ける人が増えたんです。直感的に思ったんですよ。織部というほとんど勝てないプロゴルファーが、どうやって負けと折り合っていくのか。負けの意味を人生の中から掴みだすことで、自分のエネルギーにしていくという、その負け方。そんな人を自分からは最も遠いゴルフという競技の中で演じたら、時代の空気と折り合うのではないかと思ったんです」

シリーズ第1作には、発想の原点になった映画とエピソードがある。
「最後に死んだかつての大リーガーたちが現れるファンタジー『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)。あの作品が持っているスピリチュアルな要素が、ゴルフに一枚絡んでくる幽霊物語が作れないかと。そこで思ったのが、中島常幸プロに聞いた話なんですが、中島さんが北海道のトーナメントで闘ったときに、お母様が危篤か、あるいは亡くなった後の一番初めの試合だったんです。だから試合をしても集中力がないんだけれど、そんなときに限ってスコアがいい。それで17番ホールに行ったら、横にお母様がおられたと。幻覚だと思って見ないようにして、そのホールはバーディーを取って、最終ホール。グリーンに行ったら、そこにもお母様がいて、その姿を見ないよう努力して幻覚に背を向けてパッティングしたと。これは霊が見えたのかわかりませんが、スポーツ選手はゾーンに入ったときに不思議な体験をすると言いますよね。そういうものは映画で描けるんじゃないかと思いました。ですから第1作では、大滝秀治さん演じるお世話になったゴルフ好きなやくざの組長が、霊になって織部の試合を応援に来ているという描き方になったんです」

監督業は、自分には難しかった

第2作から監督もやってみて、自分が撮影に参加する姿勢が変わったという。
「自分が俳優さんの側にいるのと、キャメラの横で監督として俳優さんの芝居を見るのとでは、ものすごく世界が違うんです。それは精神的にきつかったですね。またいいセリフを思いついたら、主演の自分が言えばいいものを、周りの俳優さんに配っていました。監督をやると、自分よりも周りの俳優さんのいいセリフに酔うところがあるんです。それで俺はあの俳優さんをうまく使ったという気になる。でもそれだと主役が立たなくなっていく。難しかったですよ。だから海と川という、水圧が違う世界を自在に泳ぐシャケみたいなことは自分にはできないと痛感しました。ただこのシリーズが終わってからは、監督さんに食って掛からなくなりました。『この人も、辛いんだろうな』と思うようになってね(笑)」

武田監督はゴルフという競技を通して、どんなドラマを描きたかったのだろうか。
「ゴルフは、かなり運が混じり込んでいるスポーツだと思うんです。その運とどう折り合うかということが言いたかったんだと思いますね。織部という勝てないプロゴルファーが、最後は運に身を任せる。その任せ方というのが、私たちの人生の中で実は一番大事なのではなかろうかと。これは芸能人とも似ていますね。技術はあっても何かきっかけがないと、その才能を発揮する場所を得られない芸能人がいっぱいいますから。その運をどうやって捕まえるのか。あるいは、運とどう付き合うのか。そのことをプロゴルファーというポジションから考えてみたかったんです」

海援隊が50年続いた理由は?


また6月には、武田鉄矢と中牟田俊男、千葉和臣の3人によるフォークグループ・海援隊の、『海援隊50周年コンサート~故郷離れて 50年~』の模様も放送される。
「50周年を過ぎてから、あまりケンカもせずに楽しくやっております。よくここまで持ったなと思うんです。福岡時代には同時期にTULIPがいて、井上陽水がいて、すぐ下に甲斐バンドがいてとライバルがひしめき合っていて、いつ消えてもおかしくないグループでしたから。この間千葉が、『生き残れたのは、武田さんの芝居ッ気のおかげじゃないか。音楽では全部負けていたけれど、武田さんの歌にはお芝居があって、個性では誰にも負けていなかった』と言っていました。そうかもしれませんね。『母の捧げるバラード』なんて、独り芝居しながら歌っていましたから」

これからは普遍的なものを届ける表現者になりたい


その芝居の才能を活かして、1970年代後半からは歌と俳優の両面で活躍をしてきた。
「やはり表現する面白さというのが、歌とお芝居に共通してあるんです。その二つで表現することは、自分の中で大事なことだった気がしますね。落語家の立川談志さんが芸術を定義しているんですが、落語とは『人間の愚かさを笑う』。歌謡は『人間の愚かさに泣く』、そして映画は『人間の愚かさに気付いて、その愚かさを克服したいと願う』芸術であると。だとすると私にとっては、自分の愚かさをどう歌にするのか。自分の愚かさをどう演じるのか。その二つでやっと愚かさに気付き、明日は少し賢くなろうって、手掛かりが生まれるんじゃないかという想いでずっとやってきた気がします。この年になりますとね、これからどう生きて何を表現すればいいのかを考えるんです。フランスの哲学者で作家のシモーヌ・ド・ボーヴオワールが『人間は60歳までは私という個人で生きていける。そこから先は個人で生きるのは不可能だ。では何者として生きるか。そこからは人類として生きていく』ということを言っていますが、その言葉が結構身に応える年齢になりました。私もこれからは、人間の普遍みたいなものに近づけるような歌や物語を、紡いでいけたらと思っているんです」

表現者として武田鉄矢は、齢を重ねて新たな境地へ入ってきたようである。その更なる活躍に期待したい。

 

取材・文=金澤誠 制作=キネマ旬報社

BS松竹東急(BS260ch)/全国無料放送のBSチャンネル
※よる8銀座シネマは『一番身近な映画館』、土曜ゴールデンシアターは『魂をゆさぶる映画』をコンセプトにノーカット、完全無料で年間300本以上の映画を放送。

2024年
6/5(水)20:00~
「プロゴルファー織部金次郎2 パーでいいんだ」
監督:武田鉄矢
出演:武田鉄矢、財前直見、阿部寛ほか

6/6(木)20:00~
プロゴルファー織部金次郎3 飛べバーディー
監督:武田鉄矢
出演:武田鉄矢、財前直見、阿部寛ほか

6/9(日)19:00~
「海援隊50周年コンサート ~故郷離れて 50年~」
※海援隊デビュー50周年、半世紀を記念するメモリアルコンサート。「母に捧げるバラード」「贈る言葉」「思えば遠くへ来たもんだ」ほか、大ヒット曲から最新曲まで50年の集大成を網羅します。(2023年4月1日 日本橋三井ホールにて開催)

6/10(月)20:00~
「プロゴルファー織部金次郎4 シャンク シャンク シャンク」
監督:武田鉄矢
出演:武田鉄矢、財前直見、阿部寛ほか

6/11(火)20:00~
「プロゴルファー織部金次郎5 愛しのロストボール」
監督:武田鉄矢
出演:武田鉄矢、財前直見、阿部寛ほか



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