『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』—— ゴージャスなステージと、豪華キャストが織り成す華麗な歌とパフォーマンス
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』が、東京・帝国劇場で開幕中、8月7日まで上演される。本作は、ニコール・キッドマン&ユアン・マクレガーが主演を務めて話題を呼んだ、バズ・ラーマン監督によるミュージカル映画「ムーラン・ルージュ」(01)をベースに、演出家のアレックス・ティンバースが、ザ・ローリングストーンズやエルトン・ジョン、マドンナ、レディ・ガガなど、およそ70曲に及ぶヒット曲を全編に散りばめた「マッシュ・アップ・ミュージカル」として舞台化したもの。2018年のボストン公演を皮切りに、2019年にはNYブロードウェイで上演され、トニー賞最優秀作品賞(ミュージカル部門)を含む、10部門を受賞。その後、シカゴやロンドン、メルボルン公演を経て、2023年6月、ついに日本でも帝国劇場で初上演。真っ赤に染められたゴージャスなステージと、豪華キャストが織り成す華麗な歌とパフォーマンスにより大好評を博した舞台の再演となる。
物語の舞台は、1899年、パリ。キッチュで退廃的なムードを漂わせるナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」で、花形スターであるサティーンと、アメリカ人作曲家のクリスチャンが出会い、激しい恋に落ちるが、クラブのオーナー兼興行主のハロルド・ジドラーの手引きで、サティーンのパトロンとなった裕福な貴族デューク(モンロス公爵)が二人の間を引き裂く。サティーンを愛するクリスチャンは、画家のロートレックやタンゴの振付師のサンティアゴなど、ボヘミアンである友人たちと共に、華やかなミュージカルショーを舞台にかけ、窮地に陥った「ムーラン・ルージュ」を救うことで、サティーンの心を掴もうとするが……。
「ムーラン・ルージュ」仕様の赤いライトに照らされたロビーに足を踏み入れたその瞬間、帝国劇場の吹き抜けを彩ってきた猪熊弦一郎による美しいステンドグラスの意匠も相まって、「ここはパリ?」と錯覚しそうになるほど。深紅のビロードカーテンとシャンデリアで装飾された劇場舞台の上手には、いまにも動き出しそうな巨大な青いゾウのオブジェが鎮座し、下手では電飾付きの赤い風車が回転。舞台上にはレースを模した電飾付きのハート型のアーチが幾重にも重なり、舞台中央には、「MOULIN ROUGE」のロゴが妖艶に光り輝く。
開演10分前から、プレショーとしてダンサーやアンサンブルのキャストたちがゆったりとした身のこなしでステージ上に姿を表し、胸を高鳴らせてショーが始まるのを待ちわびる時間の贅沢さを肌で感じる。剣を呑むマジックが披露された後、一旦幕が下り、クリスチャンが登場。マドンナのようなコスチュームを纏った女性ダンサーらによる「Hey sister, Go sister……」の歌声とともに、ムーラン・ルージュのショーが華々しく幕を開ける。そして「ムーラン・ルージュ」の支配人であるハロルド・ジドラーが巧みな口上で、客席ごと熱狂の渦へと誘ってゆく……。
日本版では、エルトン・ジョンの「Your Song」の訳詞を松任谷由実が手掛けているほか、宮本亜門やUAら、多くの人気アーティストたちも訳詞を担当。誰もが一度は耳にしたことがあるような有名楽曲のサビのフレーズを、抜群の歌唱力を誇るキャストが歌い繋いでいく「マッシュ・アップ」という手法が採用されており、幅広い年齢層に刺さるであろう「愛」にまつわる数々のヒットソングの日本語版のメドレーが、登場人物の心情として楽しめる。
舞台美術はもちろん、宝石のように光り輝く煌びやかなレオタードや、フリルたっぷりのカラフルな“カンカンドレス”を身に纏い、舞台上を軽やかに飛び回っては歌い踊る、キャストやダンサーの姿に目を奪われずにはいられない。物語をドラマチックに彩る照明や音響効果と、セリフを歌にのせて感情を伝えるミュージカルスターたちの“場”を掌握する存在感。「いまここ」でしか体験できないエンターテインメントの真髄に触れ、幕間さえ夢見心地に。
「ムーラン・ルージュ」の花形スター・サティーンが、ダイヤモンドのように光り輝く衣裳を身に纏い、空中ブランコに乗って優雅に登場するシーンや、2幕の頭でレディ・ガガの「バッド・ロマンス」に合わせてダンサーたちがショーのリハーサルをするシーン。さらには、恋に溺れて自暴自棄になったクリスチャンが、グリーンのライトで照らされた舞台の中で、シーアの 「Chandelier」の1.2.3のリズムに乗せて、アブサンを煽るシーンも脳裏に残る。
悲恋を描いた物語ではあるが、湿っぽいまま終わらないのも本作の特徴だ。カーテンコールではキャストが舞台に勢ぞろいして、「皆でカンカン!」と賑やかにラインダンスを披露。ラストにはライブコンサートさながら、バズーカ砲から銀テープが発射され、花吹雪が舞う。
昨年同様、サティーン役を望海風斗と平原綾香、クリスチャン役を井上芳雄と甲斐翔真、ハロルド・ジドラー役を橋本さとしと松村雄基、デューク(モンロス公爵)役を伊礼彼方とKのWキャストで上演。舞台とは、一期一会の生モノ。キャストの組み合わせや客層が異なれば、印象がガラリと変わるゆえ、中毒性もある。来年改装を控える帝国劇場で目にできる機会はこれが最後。ぜひ「ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル」を観てほしい。
文=渡邊玲子 制作=キネマ旬報社 写真提供=東宝演劇部
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』
東京公演
日程:2024年6月20日(木)~8月7日(水)
会場:帝国劇場
大阪公演
日程:2024年9月14日(土)~28日(土)
会場:梅田芸術劇場 メインホール
キャスト:
【サティーン】望海風斗 / 平原綾香
【クリスチャン】井上芳雄 / 甲斐翔真
【ハロルド・ジドラー】橋本さとし / 松村雄基
【トゥールーズ=ロートレック】上野哲也 / 上川一哉
【デューク(モンロス公爵)】伊礼彼方 / K
【サンティアゴ】中井智彦 / 中河内雅貴
【ニニ】加賀 楓 / 藤森蓮華
【ラ・ショコラ】菅谷真理恵 / 鈴木瑛美子
【アラビア】磯部杏莉 / MARIA-E
【ベイビードール】大音智海 / シュート・チェン
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