- キネマ旬報WEB トップ
- 憎いもの
- ストーリー
「憎いもの」のストーリー
東北で小さな雑貨商を営んでいる村井彦一の一生の念願は東京の問屋から安い商品を直接仕入れることであった。このための仕入金五万円は東京の会社に勤めている娘由子が月々送金してくれるのを貯めて出来た。同業者の木山に連れられて初めて上京した彦一は、娘由子の大歓迎を受け、しかも念願の仕入れも終り、いまさらながらに由子の親孝行に感激した。そして、これで由子にも故郷の小学校の先生をやっている恋仲の小倉と一緒にさせてやることも出来るとしみじみ思った。思えばこの東京での数日が、彦一にとって人生最高の幸福な日々であった。--帰りの汽車にはまだ時間があった。木山はいやがる彦一をむりやりにとある温泉マーク旅館に連れ込んだ。だが彦一は娘のことを思うと女に手を触れる気がしなかった。汽車の時間が迫って木山の部屋に行くとそこにいた女は、何と娘の由子ではないか。思いがけぬショックに彦一は我れを忘れた。怒りと失意のどん底にたたきのめされた彦一はその夜木山と正体もなく泥酔した。夜半、ふと酔眼を開いた彦一の眼に人を小馬鹿にしたようなひょっとこの面があざわらっていた。彦一に狂暴な怒りがこみ上げ、無意識のうちにヒョットコの首をしめてしまった。だが、それはお面をかぶった木山だったのだ。--翌日刑事部屋で取調べを受ける彦一の側には愚かな目をむき出したヒョットコの面が彦一を嘲笑うようにころがっていた。