「スペシャリスト 自覚なき殺戮者」のストーリー

南米・アルゼンチンに逃亡していたナチスの親衛隊中佐アドルフ・アイヒマンをユダヤ人国家イスラエルが拘束し、1961年4月11日同国イェルサレムの法廷で裁いた“アイヒマン裁判”。裁判はイスラエル政府の意向で一部始終が撮影・録音され、その内容は全世界37カ国で放映されたと言われている。ハンナ・アーレントの裁判傍聴記『イェルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』に感銘を受けた、“国境なき医師団”元総裁のロニーと、イスラエル映画界の“反体制派”の1人と言われる映像作家エイアルは、イェルサレムに保管されたアメリカの取材チームによるヴィデオ素材に初めてアクセスを試み、約350時間に及ぶ記録素材をもとに、約2時間の映画に再構成した。“専門家(スペシャリスト)”としてのアイヒマンの技術的能力と専門知識を浮かび上がらせる一方で、防弾ガラスに囲まれた被告人席で唇をゆがめ、「自分は上司の命令に従っただけ」とひたすら主張する小役人の肖像をリアリズムで描写し、ハンナ・アーレントが説いた“悪の凡庸さ”の実像を暴く。