本心の映画専門家レビュー一覧
本心
芥川賞作家・平野啓一郎がデジタル化社会の功罪を浮かび上がらせた同名小説を、「ぼくたちの家族」の石井裕也監督&池松壮亮のタッグで映画化したミステリー。母が自由死を選んだと知った朔也は、なぜ自ら死を望んだのか本心を知ろうとしてAIで母を蘇らせる。石井裕也監督と池松壮亮が組むのはドラマを合わせて9作品目。進化する時代に翻弄される朔也を池松壮亮が、朔也の母・秋子を「怪物」の田中裕子が、トラウマを抱える三好を「十二単衣を着た悪魔」の三吉彩花が演じる。
-
文筆家
和泉萌香
人工知能の発達や記憶というテーマをめぐって、二十世紀から今までさまざまな物語や映画がつくられてきた。本作では「自由死を選んだ母の本心」というミステリを出発点に「格差」に「愛」などテーマは広がるも、すべてつまんだようで半端な印象がぬぐえないし、取ってつけたようなダンスシーンにも鼻白む。しかし某大ヒットアニメ映画の際にも同じような指摘がされていたが、まったく必要とも思えない、ポルノの見過ぎと言いたくなるような台詞を10代の女の子に言わせるのは一体なんなのか。
-
フランス文学者
谷昌親
すぐれた原作があり、実力のある俳優陣が揃い、優秀なスタッフが控えていれば、成功作となる素地はできている。AIや仮想現実がテーマとなると、話題性にも事欠かない。しかし、すべての要素が集まっているからこそ、それをどう組み立てていくかが問題で、監督の演出術がより大事になる。石井裕也監督は、壮大なテーマをはらんだ物語を、ある意味ではごく素朴に、それでいてきわめて繊細に扱った。むやみにCGを使わず、簡潔に撮り上げる演出のもとで、物語に生命が宿ったのである。
-
映画評論家
吉田広明
AIが死んだ母を生成するということの倫理的問題、また息子の心理的揺らぎがメインのはずだが、自死の問題(権力による福祉負担減少の狙いも)、アバターの行動代理(リアルの負担が弱者に負わされる格差構造)といった副筋が入り込んでくるため焦点がぼやけ、まとまりが弱化。AIによる人格生成自体が込み入った複層的な問題を提示することは分かるし、塊を投げつけるかのような演出が監督の持ち味であることを承知したうえで、より丁寧な作劇が欲しかった。
1 -
3件表示/全3件