ヒットマン(2023)の映画専門家レビュー一覧
ヒットマン(2023)
「6才のボクが、大人になるまで。」のリチャード・リンクレイターが監督・脚本、「恋するプリテンダー」のグレン・パウエルが主演・脚本を務めたクライム・コメディ。1990年代にニセの殺し屋として70件以上も警察のおとり捜査に協力した実在の人物をモデルに描く。大学教授でありニセの殺し屋ゲイリーは、夫殺害を依頼してきた女性と恋に落ちてしまう。共演は「モービウス」のアドリア・アルホナ、『ウォーキング・デッド』シリーズのオースティン・アメリオ。第80回ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門、サンダンス映画祭2024、トロント国際映画祭などで上映。
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映画監督
清原惟
地味な大学講師が殺し屋になりきり警察の捜査に協力していくなかで、相手の好みに合わせた殺し屋に扮していくのだが、そのレパートリーの豊富さとそれぞれの人物の説得力がとてつもなくて笑える。前半は演技で人を欺くさまを単純に楽しんで観ていたが、物語の核となっていく依頼人の女性との恋愛は、どんな人間でも日常の中で演技をしていることや、相手によって自分が変わってしまうこと、それによって人が変化していくことなど、演技というものに深く考えさせられる展開だった。
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編集者、映画批評家
高崎俊夫
無類のシネフィルであるR・リンクレイターだけに冒頭の殺し屋映画のフッテージをコラージュ風に引用した下りで野村孝の「拳銃は俺のパスポート」(67)が登場した瞬間、思わずニヤリとなる。よいセンスだ! 実在のニセ殺し屋がモデルらしいが、ふだん大学で心理学を講じる教授という設定は「霧の夜の戦慄」(47)のジェームス・メイソンのパロディではないか。ただし元ネタのような深刻なスリラーではなく、プレコード時代のモラルを粉砕するようなスクリューボールな笑いをこそ顕揚したい。
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映画批評・編集
渡部幻
快作。好調の波に乗ったグレン・パウエル。リンクレイターのファンは彼の近作でこの妙に面白い役者を発見したが、コンビの新作では二人で脚本を書いている。離婚経験のある地味な心理学教授が、囮捜査への協力のため偽の殺し屋を演じさせられる。依頼人を逮捕するため、彼らが期待するだろう“殺し屋像”を演じ分ける才能に気づくのだが、ある女性に思い入れてしまい……。リンクレイターは彼ならではの現代人の混乱をユーモアに包んで「本当の自分は誰? 真実の人生とは何?」と問いを忍び込ませているのだ。
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