Chimeの映画専門家レビュー一覧
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文筆家
和泉萌香
見ているだけで陰気な気分になる終始のぺっと薄暗い画面に、耳障りな音をなんてことないというふうに上書きする音の数々と、凝縮された不穏な世界を楽しむ。目撃者と実行者、加害者と被害者、二人だけの蟻地獄的空間と転ずる、規則正しく障害物(机)が並べられた料理教室が恐ろしく魅力的。「走ってもダメ、叫んでもダメなら、もう踊るしかないんじゃない?」と思ったぐらい、何もかものあまりの動かなさにキツくなったが、最後まで濁った虚無のままに締めくくられた。
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フランス文学者
谷昌親
いくら男の狂気を示すためとはいえ、殺人のシーンは後味のいいものではない。しかし、その後味の悪さを呑み込むように、料理教室が不気味な空間に変貌し、人物たちが異星人のように感じられてくるのだ。そうした不穏さを象徴するのが、料理教室のすぐ横を走る電車の音と光であり、いつのまにか耳に響きだすチャイムで、それは、映画そのものが現実とのずれのなかで奏でる不協和音ともいえよう。縄のれんが揺れ、ドアが開くだけで戦慄が走るのは、黒沢清作品ならではの映画的体験だ。
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映画評論家
吉田広明
脳内でチャイムが聞こえるという料理学校生徒の自死以後、主人公の周り、主人公自身に異変が生じる。黒沢監督おなじみの半透明の幕が、ここでは扉の内と外を意識させるチャイムや、教室の外から内に差し込む光などに敷衍され、映画内で起こる様々な異常が主人公の脳内の話なのか、現実なのかを曖昧にする。尺が短いので、その事態の意味までは手が届いていないのが物足りないが、ほんの数ショットで自身の映画時空間を立ち上げ、タマの違いを見せつけてくれる技量は流石と言えよう。
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