大きな家の映画専門家レビュー一覧

大きな家

「14歳の栞」の竹林亮が監督、児童養護施設で暮らす子どもたちに密着したドキュメンタリー。家族ではないつながりの中で生活しながら、自分の運命と向き合い、葛藤し、未来に目を向けて成長していく子どもたちの姿を記録する。企画・プロデュースは俳優・監督の齊藤工。児童養護施設をたびたび訪れていた齊藤工が、配信などはせず劇場上映のみに限定し未成年者である出演者への誹謗中傷やプライバシーの侵害がないように配慮した「14歳の栞」の公開方法に触れたことから、本作の企画がスタートした。本作の配信やパッケージ化は予定されていない。
  • ライター、編集

    岡本敦史

    養護施設の子どもたちに密着し、つとめて「普通の生活」を切り取ろうとするコンセプトはわかる。実際、不幸でも孤独でもない、生き生きとした表情や感情は多々捉えられているが、被写体の魅力と反比例して、作り手の空虚さや問題意識のなさを逆照射している感も否めない。躍動感溢れる映像や音楽はむしろ凡庸さをいや増す。後半ようやく「家庭」をめぐる固定観念が施設育ちの子たちにも染みついた日本の病理を浮き彫りにし、考えさせる内容にはなるが、少し時間がかかりすぎる。

  • 映画評論家

    北川れい子

    この児童養護施設では、幼児たちは別にして小学生になると個室に移る。一般家庭の子ども部屋と変わらない。さらに男子、女子と分かれているが、一棟に5~6人の子どもたちが職員と共同生活をしていて、職員と一緒に自分たちの食事作りをしたりも。竹林監督は、ときには叙情的映像を挟みながら、ここで暮らす子どもたちの日常を四季それぞれに記録していくのだが、監督の問いに、ここは施設、家庭とは違う、と淡々と応じる子どもが何人もいて、その本音の重さに改めて家族の不在を実感する。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    過度にドラマチックにするわけでも、絆や感動を押しつけがましく作り込むわけでもなく、淡々と日常を切り取るのが良い。さまざまな事情を抱える子どもたちへの踏み込みすぎない視点は、場合によると淡白すぎると思えるかもしれない。だが、施設は実家ではなく、あくまで施設にすぎず、同居人たちは疑似家族ではなく、あくまで他人であるという当事者たちの達観した眼差しを前にすれば、こうした作りになるのも必然に思える。むしろ作為性を捨てて撮ったからこそ現れる無機質さが好ましい。

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