ジョイランド わたしの願いの映画専門家レビュー一覧

ジョイランド わたしの願い

パキスタン映画として初めてカンヌ国際映画祭に出品され、ある視点部門審査員賞、クィア・パルム賞を受賞したドラマ。保守的なラナ家の次男ハイダルは就職先として紹介された劇場で、トランスジェンダー女性と出会い、パワフルな生き方に惹かれていくが……。パキスタンの新鋭サーイム・サーディク監督の長編デビュー作。第38回インディペンデント・スピリット賞外国映画賞受賞、第95回米アカデミー賞国際長編映画賞パキスタン代表&ショートリスト選出。
  • 俳優

    小川あん

    これは……ミヒャエル・ハネケ「ハッピーエンド」との類似性を感じる。タイトル、そして内容の逆転。一つの問題から派生して、家族が最悪の事態に陥る。最後になってやっと周囲が正気を取り戻す時間感覚。同じように、本作も見て取れた。この構成を描き切るのは難しい。主人公の妻が自殺に追いやられた要因を、正確に説明する必要があり、家父長制、トランスジェンダーの要素は慎重に描写しなければならない。「ジョイランド」はバッチリだった。鋭く、重厚感のある作品になっている。

  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    監督がずっと温めていた題材だけに、ややテーマを盛りこみすぎな気もするが、それでもなお喚起力に満ちた力強い映画。トランスジェンダー女性との出会いによって、自分の真の姿に気づかされていく夫。「女」の枠に閉じこめられまいともがきはじめる妻。文化が違えば先進的なベストカップルとして賞賛されるだろうふたりが、強力な男尊女卑社会の圧力のもと、苦悩するさまが痛々しい。そしてもちろん苦悩するのは彼らだけではない。場面の息づかいをとらえる撮影も、洗練されたタッチの演出も魅力的。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    パキスタンの新鋭監督の初長篇。大都市ラホールに暮らす伝統を重んじる9人家族の失業中の次男が就活で紹介されたシアターでトランスジェンダー女性と出会い、惹かれていく。第三世界LGBTQモノは性的偏見にのみフォーカスを当てがちだが、本作は家族のキャラクター描写が巧みで、次男が保守的価値観と性的多様性の価値観の間で揺れ動く様子が丁寧に描かれる。撮影や編集もモダンで、地球の遠くの国を舞台にしながら、私たちと共感・共有できる物語に仕上がっている。この監督、期待大。

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