どうすればよかったか?の映画専門家レビュー一覧
どうすればよかったか?
統合失調症の症状が姉にあらわれたとき、精神科から姉を遠ざけてしまった医師でもある両親。その態度に疑問を持った弟が、20年にわたって家族にカメラを向けたドキュメンタリー。カメラを通して家族との対話を重ね、社会から隔たれた家の中と姉の姿を記録した。監督は、「アイヌプリ埋葬・二〇一九・トエペッコタン」「とりもどす」などアイヌをテーマにしたドキュメンタリーを手がける藤野知明。2023年山形国際ドキュメンタリー映画祭日本プログラム上映作品。
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文筆家
和泉萌香
家族もれっきとした他者である、という事実を頭で理解しつつも、心に定めていることができる人はどのくらいいるだろうか。統合失調症を疑われた娘を医者から遠ざけ、状況は悪化、扉には南京錠がかけられた、と文章にしてみると凄まじく強烈で、いや、ご家族の長く壮絶な日々が映されているのだが、あの花火を並んで見る一瞬間にただただ涙が出てしまった。病への理解、人と分かりあうことの困難のみならず、老い、そして死の意味をも問い、カメラという他者が冷静かつ優しく捉える。
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フランス文学者
谷昌親
たまの家族旅行などを除くと、カメラは藤野知明監督の実家から出ることはない。それでも私たちがこの映画に単調さを感じないのは、もちろん、家族の一員が統合失調症を患い、それでもその両親が治療や入院を拒みつづけたという特殊な状況があるからだが、それ以上に、20年にもわたって撮影が続けられたためだ。同じ室内で、進展のない会話が試みられる様が反復される。だが取るに足らぬように見えるその映像の連続こそが時の歩みを残酷なまでに刻印し、ついには鎮魂歌となるのである。
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映画評論家
吉田広明
統合失調症を発症した姉を、両親が自宅にほぼ軟禁状態にする。両親が医学の研究者であったことがかえって事態を複雑にしたということはあるだろうが、この対応がまずかったことは医者に見せた後の経過を見れば明白である以上、「どうすればよかったか」という問いの答えは予め出ているのではないか(自分ならそう出来たかは措き)。従ってここには、どうしようもない現実を我々に突きつけ、どうすればよかったのかと我々を問い詰めるだけの衝迫が欠けているように思える。
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