Welcome Backの映画専門家レビュー一覧

Welcome Back

「高崎グラフィティ。」の川島直人監督による、本当の居場所を求めて必死に生きる若者たちのボクシング・ロードムービー。有力視されたボクサーのテルが新人王決定戦で敗北した。次第に荒んでいくテルの横で、同じ団地に育った弟分ベンは「テルは負けない」と復讐を誓う。テル役には、Netflixドラマ『地面師たち』の吉村界人、ベン役には「Cloud クラウド」の三河悠冴。第40回ワルシャワ国際映画祭正式出品作品。
  • 文筆家

    和泉萌香

    口が悪くちゃらんぽらんそうな兄ちゃんが主人公で、これから二時間どうなるかと身構えたが、彼らに自覚はなくとも大人たちに見捨てられた、ボクシングしか知らない青年ふたりがそれまでの人生に答え合わせをするべく殴り、殴られるさまにつきまとう寂しさと、強がりで自分をとりつくろう若者がたどる道へのやさしい眼差しに胸をうたれた。中盤より、兄弟のような関係のふたりに巻き込まれ彼らをフォローするはめになる「保護者」遠藤雄弥のたたずまいが穏やかにバランスをとる。

  • フランス文学者

    谷昌親

    異色のボクシング映画だ。たしかに、試合やスパーリングのシーンでは、無暗に細かくカット割りせず、ボクシングファイトをしっかり見せている。だがこの映画が描こうとしているのは、同じ団地で兄弟のように育ったテルとベンの関係、そしてテルにひたすら憧れるベンの姿だ。知的障害があると思われるベンの描き方には疑問も湧いてくるが、ベンとテルがボクシング仲間の青山とともに大阪に向かうあたりから、独特のロードムーヴィー的味わいが加わり、映画としての魅力がきらめいてくる。

  • 映画評論家

    吉田広明

    知的障害者が兄貴分のボクサーを妄信、兄が負けて引退した後、彼を倒した相手を自分が倒すことに執心。兄のスタイルを完コピした弟は兄にとって鏡像となるわけだが、それが兄の自己反省の契機となるわけでもなし、物語の枠組みを規定する旅の過程で弟が成長したわけでもない。兄弟的関係は並行のままであり、ために最終的にコピーがオリジナルを凌駕する展開も説得力を欠く。この映画に時間は流れない。ラストの卵かけご飯の長い無意味なシークエンスが全体を象徴している。

1 - 3件表示/全3件