Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたりの映画専門家レビュー一覧

Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり

マレーシアのスラム街で生きる貧困層の現実を描き、世界の映画祭で数々の賞に輝いた社会派ドラマ。聾唖の兄アバンと弟のアディは、首都クアラルンプールにあるスラム街・富都(プドゥ)地区で暮らしていた。だが、2人の未来にある事件が暗い影を落とす。出演は「逆強盗」などで活躍する台湾出身のウー・カンレン、マレーシアのスター俳優ジャック・タン。社会派作品のプロデューサーとして国際的な評価を得てきたジン・オングの長編初監督作。
  • 俳優

    小川あん

    富都のスラム街で、身分証を持てず生活していた兄弟に悲劇が訪れる。テーマは社会問題×兄弟愛。社会問題を描く観点で言えば、もっと個人的な場面を盛り込んでほしかった。絶妙に難しいラインだけど、その辺りは台湾映画の巨匠たちがずば抜けていると思ってしまう。まだ幼かった頃の兄弟が、ゆで卵を頭でわり合う回想シーン。感傷的なシーンとは取れなくて残念。最後の時を迎えたアバンの魂の叫びは観客にも心が揺さぶられるものがある。声にならない声、とはまさにこのことだ。 

  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    年齢設定がわからないけど弟があまりに精神的に未熟なのが気になるなあと思っていたら、途中からやはりそのせいで、予想もしなかった方向へと物語が転がりはじめる。死んだ女性の人生を奪ったことをわびる人物も、彼女のために憤る人物も祈る人物も出てこないのがどうしても気になるが、マレーシアの知られざる問題を取り上げたこと自体は意義深く、何より撮影が素晴らしい。社会のネガティブな側面を描いた映画であるにもかかわらず、日常を丁寧に拾う官能的な画面が、この国の魅力へと観客を誘う。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    クアラルンプールのプドゥ地区にあるスラム街に生きる二人の兄弟の物語。身分証明書を持たない二人は危険と隣り合わせの日々を送るなかで、ある事件が二人の運命を変えていく。まるで英作家チャールズ・ディケンズのアジア版のようなドラマ性のある物語で、兄弟を演じる二人の俳優も素晴らしく、映像もアジア的芳醇さがある。話が悲惨さに終わらないのもいい。ろう者の兄を演じた台湾のウー・カンレンの目力に射抜かれる。

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