ノー・アザー・ランド 故郷は他にないの映画専門家レビュー一覧

ノー・アザー・ランド 故郷は他にない

2024年ベルリン国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞と観客賞の2冠に輝いたドキュメンタリー。パレスチナ人青年バーセル・アドラーとイスラエル人ジャーナリストのユヴァル・アブラハームが、イスラエル占領下のパレスチナ人居住地区の実情を4年に渡って記録した。さらに、パレスチナ人とイスラエル人という立場を越え、対話を重ねて生まれたバーセルとユヴァルの友情も映し出す。監督には、彼らのほか、ハムダーン・バラールとラヘル・ショールが加わり、パレスチナ人2人とイスラエル人2人の計4人が名を連ねた。
  • 文筆業

    奈々村久生

    大挙してやって来たショベルカーが家を壊す。パレスチナ人の居住地をイスラエルの軍用地にするという名目で。抵抗する住人には銃を向けることも厭わない。そこで行われているのは明らかに殺人だが、イスラエル軍側の人間は罪に問われることも法で裁かれることもない。倫理や道徳、善悪で論じるのはもはや無意味だ。同時に浮かび上がるのは現実の後を追うことしかできないジャーナリズムの無力。だからこれは単なる現実の記録ではない。その意味で「シビル・ウォー」との間に位置する一本。

  • アダルトビデオ監督

    二村ヒトシ

    大切なのは生活だ。石を積んだ家で暮らす日々(子どもたちは我々と同じようにスマホでゲームをしてなかなか寝ない)が想像もできない僕は、平和ボケしてるから自分が自分の生活から追放され殺される事態も想像つかない。追放や破壊や虐殺を行うのは、かつて追放され差別され虐殺された民が作った国。DVの連鎖と同じだ。だがイスラエルの若者はパレスチナで、自分の国の行為を目撃する。パレスチナの若者と一緒に映画を撮る。撮るしかない。人間は狂っていない。狂っているのは常に国家や組織だ。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    パレスチナ人居住地区であるマサーフェル・ヤッタ。監督のバーセルは、故郷がイスラエルから勝手に「軍事射撃区域」に指定され、村がショベルカーで無理やり破壊されるさまを撮影する。日本では我が事として想像するのが難しい災難の光景だ。そしてイスラエルのジャーナリストのユヴァルは、自国の振る舞いに胸を痛め、バーセルの撮影に協力する。敵側にもまともな倫理を持つ人がいると再確認できる行為だが、これは意外ではなく、慈悲や同情という当然の人間的感情なのだ。

1 - 3件表示/全3件