雪の花 ―ともに在りて―の映画専門家レビュー一覧
雪の花 ―ともに在りて―
江戸末期に疱瘡(天然痘)と闘った医師・笠原良策の実話を基にした吉村昭の小説『雪の花』を、「雨あがる」「峠 最後のサムライ」の小泉堯史監督が映画化した時代劇。疱瘡が猛威を振るうなか、異国では種痘(予防接種)が行われていることを知った良策は、人々の命を救うために困難に立ち向かう。「居眠り磐音」で共演した松坂桃李と芳根京子が主人公の良策と妻の千穂を、蘭方医・日野鼎哉を「峠 最後のサムライ」の役所広司が演じる。2024年第37回東京国際映画祭ガラセレクション出品作品。
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ライター、編集
岡本敦史
時代劇とは現代を描くためのジャンルである、という韓国のイ・ジュニク監督の言葉を思い出す一作。医療従事者の努力と献身を伝える実話を、この時代に映画化する意義は大きい。なればこそ、ワンシーン・ワンカット演出にこだわるあまり、本来エモーショナルな物語が必要以上に枯れたタッチで綴られることには若干の疑問を覚えた。効果的な引き画の長回しもあるが、ごく普通の切り返しが素直に良い場面もある。苛酷な山越えのあとのくだりも、割り方次第でより実感を増した気が。
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映画評論家
北川れい子
時代劇、現代劇を問わず、小泉堯史監督が描く人物やその世界観には常に生真面目な誠実さがあり、観ていていつも安心する。漢方医である主人公が、蔓延する疫病の治療薬を求めて奔走するという本作も、つい昨日のコロナ騒ぎを体験しているだけに、主人公ならずともその不安や恐怖は他人事ではない。ただいくつかアクションはあるものの、いまいちドラマ性が希薄で、演出も楷書書きのようにどこか堅苦しい。いや、だから退屈、というわけではないが、正面芝居が多いせいか窮屈感も。
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映画評論家
吉田伊知郎
風の音が響き、草木の匂いが漂い、歴史的建造物に手を加えて撮ることで人が暮らす温かさが息づき始める。そんな手間暇をかける時代劇は今や皆無だけに、その悠々たるリズムと共に画面に惚れ惚れする。感染症の拡大と予防接種に対する流言飛語に向き合う物語は、増え始めたコロナを題材にした作品の中でも突出した完成度。役所広司の存在感が役よりも大きすぎる問題や、チャンバラのサービスは必要だったのかという疑問はあれど、「赤ひげ」への静かな返歌として好ましく観る。
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