太陽と桃の歌の映画専門家レビュー一覧

太陽と桃の歌

「悲しみに、こんにちは」のカルラ・シモン監督の長編2作目にして、第72回ベルリン国際映画祭金熊賞(最高賞)を受賞したヒューマンドラマ。桃農園を営む大家族が地主から桃の木を伐採してソーラーパネルを敷き詰めると告げられ、家族崩壊の危機のなか最後の収穫を迎える姿を描く。前作同様にスペインのカタルーニャ地方を舞台に、豊かな大地と実り、きらめく夏の陽光と風をとらえた。プロの俳優ではなく、その地に愛着を持つ地元の人々を起用。家族の生き生きとしたやりとりが、不当な現実と怒りを浮き彫りにする。
  • 映画監督

    清原惟

    劇映画だとわかっていながらも、どうしても桃農園を営む一家の生活に密着したドキュメンタリーのように思えてきてしまう。監督の実家が代々農園を営んでいること、職業俳優ではなく、実際にその地域に住む人々が出演していることを知り、深い納得があった。一つひとつの場面は、物語を展開させるために存在しているのではなく、ただそこにある時間の輝きがある。おじいさんがピンク色のかわいいシャツを着ているのも自然に受け入れられるくらい、演出を感じさせない演出が巧みだった。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    カタルーニャ地方にある小さな村で代々桃農園を営むソレ家に容赦なく襲いかかる近代化の波。地主が突然、土地を明けわたすように宣告し、桃の木を伐採してソーラーパネルを設置するというのだ。しかし映画はその波紋の広がりを社会派的な視点で激しく糾弾するわけではない。カルラ・シモン監督の自伝でもある本作の魅力は現地の素人を起用し、ドキュメンタリー的な肌合いを感じさせることだろう。彼女はゆるやかに崩壊してゆく家族を深い愛惜とノスタルジアを込めて葬送しているのだ。

  • リモートワーカー型物書き

    キシオカタカシ

    長年の地方在住かつ「サマーウォーズ」を観て「『儀式』こそが大家族のリアル」と奥歯を?み締めたタイプの人間として身構えて鑑賞。しかし誰もが身に覚えがあるような生々しい“親戚間の揉め事”すら瑞々しくリアリズムで描いた本作は、勝手な先入観に反してするりと飲み下せてしまった。ままならぬ現実とノスタルジー混じりの希望を包括したラストシーンが象徴する甘美で痛切な気分と空気は、斜陽の時代を生きていると感じる多くの人が当事者として意識できるものではないだろうか。

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