おんどりの鳴く前にの映画専門家レビュー一覧

おんどりの鳴く前に

ルーマニア・アカデミー賞(GOPO賞)6冠に輝いたヒューマン・サスペンス。ルーマニア・モルドヴァ地方の静かな村で、鬱屈とした日々を送る中年警察官イリエ。平和なはずの村で惨殺死体が見つかったことをきっかけに、彼は美しい村の闇を次々と目の当たりにしていく。監督は、ルーマニアの新鋭パウル・ネゴエスク。狭いコミュニティを舞台に、欲望と正義の狭間でゆれる主人公の葛藤を社会風刺を交えて巧みに表現し、高い評価を得た。
  • 文筆業

    奈々村久生

    邦題は聖書に出てくる言葉で、イエスが弟子の裏切りを示唆したもの。平和とは臭いものに蓋をして見て見ぬふりを決め込んだ上に成り立っているという皮肉な事実が突きつけられる。田舎の同調圧力から生まれる異常性はよそ者によって暴かれることが多いが、告発者が内部にいた場合はどうなるか。それは地獄でしかないことがドライな語り口で描かれるが、大衆の信じるもの=正義になるのは世の道理で、この世界は大きな田舎に過ぎない。それをニヒリズムでは見過ごせなかった主人公の悲哀が染みる。

  • アダルトビデオ監督

    二村ヒトシ

    主人公がとても不気味なんだが、それは顔つきとか猫背とか物腰とか、俳優の的確な表現によるもので、物語レベルでは不気味じゃないどころか彼の理性や感情、欲望(というか希望と絶望)はとてもよくわかる。観ている我々にとってとてもよくわかる人物(我々自身と言ってもいい)が、映像の中ではとても不気味だという切実。田舎ホラーかと思ってたら社会派、しかも声高に政治の正義を語るのではない、地に足のついた普遍的なドラマ。ラストのオフビートな衝撃の展開に笑いながら泣くしかない。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    田舎で珍しく惨殺事件が起こる。警官のイリエは村長や司祭からまあまあと丸く収めるよう促される。すでにお膳立ても出来ていて、村はすぐ元の落ち着きを取り戻すだろう。しかし新たにやって来た若い警官は疑念を抱き、引き続き独自で捜査する。田舎者で将来は果樹園を経営しようと思っていたイリエは、気がつくと哲学的な問いの前に立たされ、逃げ場を失っている。良心に従って崖っぷちに立つか、良心に背き一生十字架を背負うか。ラストの銃に不慣れな者たちの銃撃戦が胸を打つ。

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