セプテンバー5の映画専門家レビュー一覧
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俳優
小川あん
生中継の裏側をリアルに映した緊迫感のある映画というリード文では収まらないくらいの傑作。この超ストイックな方法論は、仕事とプライド、世界と国、報道と事実、ほかあらゆる相対的なものをカメラで確実に捉えている。究極のテンポ感を落とすことなく、維持し続ける難しさ。それに追いつかなければいけない(もしくは先をゆく) 俳優・スタッフに拍手喝采。そして、オープニングからラストまでの90分の時間を完璧に終えた。カメラに映る、見逃してはいけない瞬間は秒単位にある。
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翻訳者、映画批評
篠儀直子
このタイミングでの製作・公開はどうしても別の意味を帯びてしまうが、困ったことに猛烈に面白い。スリラー+バックステージ物という感じで、P・グリーングラス監督作みたいなスピード感。主眼は、突然報道を担うことになったスポーツ部クルーが直面する倫理的ジレンマ。目の前の物語を語ることに徹しようとする彼らだが、それは「誰の物語」なのか。決断を迫られつづける若手プロデューサー役は、ライカート作品のJ・マガロ。ドイツ人通訳と、アルジェリア系フランス人クルーの存在が効いている。
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編集者/東北芸術工科大学教授
菅付雅信
1972年のミュンヘン・オリンピックで起きた人質テロ事件の?末を生中継したテレビクルーの視点で映画化。よってカメラはほとんど放送局の中から出ることなく、刻一刻と変化する大事件を生中継することを選んだ者たちの倫理的葛藤も含んでサスペンスフルに展開する。無名の俳優を起用することで、極めて真実に近づけた再現ドラマのようなリアリズム。そして半世紀前の事件の要因が、今の世界とも地続きであるという現在性。映画の観客を「歴史の目撃者」に変容させる見事なノンフィクション劇映画。
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