旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランスの映画専門家レビュー一覧

旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス

フランスを代表する写真家レイモン・ドゥパルドンが倉庫に眠るアウトテイクをつないで制作したドキュメンタリー。彼の人生のハイライト集であると同時に、旅を通じて新しい自分と愛すべきものを発見する。2012年カンヌ国際映画祭、東京国際映画祭で上映。共同監督は、妻であり、ドゥパルドンの映像作品で製作・録音を担当してきたクロディーヌ・ヌーガレ。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    内戦のアフリカ、フランス大統領選挙、精神病院の内実を撮ってきたドキュメンタリストが自分を被写体とする。妻クローディーヌのカメラの前で夫ドゥパルドンは、かつて取材した山岳地帯の農夫たちと同じように訥々と自分史を語り始める。これまでの自作のダイジェストであると同時に、開放的な切り返しショットでもある。一九八六年、「緑の光線」で録音技師だったクローディーヌとのお近づきはテスト撮影という名目。女優とデレデレするロメール監督を彼女が写した8ミリも貴重だ。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    写真家のドキュメント映画を観るたびに思う。静止写真を映画で綴ることに何の意味があるんだろう、と。実際の写真集を見つめた方がずっと意義もあり感銘も深いのではないか。作家が「これはどういう状況でこんな気持ちで撮った」という発言内容も、作品そのものの中に写っているのではないか。それをあえて映画で表現しようというのなら、そこに何らかの作り手の“想い”とか“批評”がなければと思う。この作品の共同監督は写真家の妻。なるほど愛を感じる。だけど、思い出のアルバムで。

  • 映画ライター

    中西愛子

    フランスを代表する写真家にして映画作家のレイモン・ドゥパルドン。彼がこれまでに撮ってきた膨大なフィルムを編集し、フランスおよび20世紀の旅へと誘う。戦争、政治、医療、文化、日常、女性。マグナムの報道写真家のイメージを超えて守備範囲が広く、そのいずれもが人間の本質をとらえた深さと愛があって魅了される。時間や天候や気分といったものを繊細に感知する、写真家の言葉にも耳を澄ましたい。「緑の光線」撮影時の、お茶目なロメールをとらえた素材のお宝感がすごい。

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