花咲くころの映画専門家レビュー一覧
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ライター
石村加奈
仲良しのエカに「面倒を避けるためには強くならなきゃ」と、思いを寄せる男の子から贈られた銃を素直に渡す14歳の少女ナティア。ピンク色に染まった満開の百日紅の下を、一緒に歩くだけで幸せだった淡い恋は“誘拐婚”という強制結婚で、実らず終わってしまう。ナティアや姉より体も小さく、幾分幼く見えるエカひとりが、わずか26年前にジョージアでまかり通っていた常識に激しく怒り、号泣する姿はいたたまれない。涙が乾いた後、刑務所の中の父にエカは何を言うのか? 苦い余韻。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
一九九二年春、独立直後のジョージア。耐乏生活を強いられた庶民の緊迫感を、二人の14歳少女を通して苦々しくカメラに収める。上映時間の大半が口論シーンでできている本作は、若者たちのめまぐるしく変化する喜怒哀楽、突如として荒天となる空模様によって、観客を激しく揺さぶる。どのシーンもピンと緊張感が漂うが、不思議と楽天的な気配もある。愁風蕭殺の境から春風駘蕩の場への転回を仰ぎ見る。親友の結婚披露宴における主人公少女の民族舞踊シーンが忘れられない。
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脚本家
北里宇一郎
92年、紛争があり内戦がありのジョージア。その混乱下の少女たちを描いて。叫ばず喚かず、日常の感覚で少女ふたりの息遣いを観る者の肌にさらり吹きかけた、この脚本と演出。誘拐があって強制婚があってと次第に映画はコワさを滲みだす。その悔しさ、怒りを少女の男踊りで見せたところに、カチリとした作り手の芯を感じさせて。彼女たちの手を転々とする拳銃のハラハラ。でもどんな時代、状況であっても少女は大人になっていく。父親のいる刑務所に向かう主人公の強い足取り。秀作。
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