家族はつらいよの映画専門家レビュー一覧
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評論家
上野昻志
なんとまあ、饒舌な映画でしょう! 初めの電話からゴルフ場、飲み屋と、まあ、よく喋ること。蒼井優が、最後に「言葉です」というが、これは、どうでもいいことばかり喋らず、大切なことを言えという教訓だろうか? ともあれ、この饒舌は、寡黙な小津映画の対極にあるというしかない。だが、それにしても、小林稔侍の探偵が、調査対象の橋爪功の名前も写真も見ているはずなのに、相手が高校時代のテニス部でダブルスを組んだこともある男だと気づいていないのが、なんとも不思議だ。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
「東京家族」のパラレルワールド。同じキャストで喜劇で、という企画の発端が面白い。たしかに「東京家族」はほとんど山田洋次調喜劇になるところを堪えて、渋い映画にしているようなところがあった。本作のほうが、小津の呪縛があった「東京家族」より良いかも。二本立てで二段階で「東京物語」とバトったのか。あと「男はつらいよ」のシリーズ後ろのほう、“九十年代寅さん”で、吉岡秀隆の存在感が増していたときにありうる感じがした家族の映画、それがいまやっと現れている。
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文筆業
八幡橙
びくりとも揺るぎようのない、さすがの安定感。一人一人の個性際立つ“家族”という名のアンサンブル。不協和音奏で始める平田家の騒動を、徹頭徹尾前のめりで我がことのように見つめてしまったのは、実家の老いた両親が、映画の舞台のごく近隣で兄の一家と三世代同居しているためなのか。蒼井優のちょっとした表情にもグッときたが、「東京家族」とはまったく違う父親像を顔芸を駆使して熱演する橋爪功に脱帽。笑った後、家族のありがたさにちょっとしんみり。久々に“映画”を観た思い。
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