アイヒマン・ショー 歴史を映した男たちの映画専門家レビュー一覧
アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち
ホロコーストの真実を伝えるため、元ナチス親衛隊将校アドルフ・アイヒマンの裁判をテレビで放送しようと奔走したテレビマンたちの実話に基づくドラマ。主演は、TVドラマ『SHERLOCK/シャーロック』のマーティン・フリーマン。監督は、「アンコール!!」のポール・アンドリュー・ウィリアムズ。
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映画監督、映画評論
筒井武文
アイヒマン裁判をテレビ中継した監督と製作者の裏話という題材が興味深い。裁判自体の記録映像を再編集したエリアル・シヴァン監督の「スペシャリスト」が、官僚に人道的罪が問えるかと提起した斬新さに比べ、戦争犯罪人にも人間性はあるのかと、執拗にアイヒマンのクローズアップを狙う紋切型は頂けない。裁判もモニター室からのモノクロのテレビ映像に徹し、中継監督の視点で描いた方がよいと思うが、似たサイズの裁判室内のカラーの客観カットを混ぜるので、距離感が出ない。
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映画監督
内藤誠
裁判中のアイヒマンの感情の表出を撮ることにカメラを集中しようとする監督と全体に目配りして偶発的に起こることの決定的瞬間を拾おうとするプロデューサーが対立する構図がユニーク。裁判に入る前の準備に時間をかけて撮っているのがいい。アイヒマンは官僚的クールさで表情を崩さないので、監督はいらだち、焦る。映像の力を信じ、アウシュヴィッツの凄まじいドキュメントを見せたりもする。ハンナ・アーレントが傍聴する映画とともに、ここでもアイヒマンの人間性が問われている。
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映画系文筆業
奈々村久生
「顔のないヒトラーたち」(14)でもその捕獲作戦が描かれたメンゲレは生前の逮捕が叶わなかったが、連行に成功し裁かれ死刑に処されたアイヒマン。実際の記録映像があるだけにフィクションでそれを扱うことの難しさがいま一度露呈される。アイヒマンの人間性をとらえようとするディレクターと、裁判そのものをショーとして魅せたいプロデューサーとの確執は、そのまま今日の映像ビジネスの現場にも通ずる。『小さいおじさん』界のエースであるM・フリーマンがいい味を出している。
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