オーバー・フェンスの映画専門家レビュー一覧

オーバー・フェンス

「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」に続く、佐藤泰志の小説を原作にした函館発信映画最終章。妻に愛想をつかされた白岩は、故郷・函館に戻り職業訓練校に通う。人と距離を置き人生を諦めかけた彼が、風変わりなホステス・聡と出会い、急速に惹かれていく。監督は「味園ユニバース」の山下敦弘。「海炭市叙景」の熊切和嘉監督や「そこのみにて光輝く」の呉美保監督とは、大阪芸術大学の後輩や同期生にあたる。出演は「FOUJITA」のオダギリジョー、「東京家族」の蒼井優、「イニシエーション・ラブ」の松田翔太ほか。東京テアトル70周年記念作品。
  • 評論家

    上野昻志

    職業訓練校という場の感じがリアルだ。経歴も年齢もバラバラな連中に大工や自動車修理の技術を習得させることを建て前とした場の、生徒と教員双方を覆う独特の倦怠感。そんな空気に順応しているオダギリジョーが、とりあえずの擬態であると感じさせて悪くない。そして、そんな彼の装われた外皮を破るのが蒼井優だが、いつもは静かに抑えた外面の内に一筋縄でいかぬ手強さを表現する彼女が、ここでは奇矯な振舞いを通して、脆く傷つきやすい魂を抱えている様を見せて秀逸!

  • 映画評論家

    上島春彦

    タイトルの意味が最後に判明する、その瞬間の感銘が大変なもの。これは察するに(世の中と)和解はするが復縁はしない、という映画。そういう絶妙な距離。もっともそれを絶妙と評価できるのは観客の特権だ。主人公が引っ越して来て三カ月も経つのに段ボールがそのまま、というあたり脚本演出も手なれ、妹の旦那さんの存在も隠し味的に効いている。つまり彼が世間だ。典型的な躁鬱気質の踊るキャバ嬢に扮する蒼井優のどろどろした純情にいつしか観客もほだされてしまうのであった。

  • 映画評論家

    モルモット吉田

    同じ原作者の前2作の気取りと名作志向がなくなり、監督が自分の世界にしているのに好感。様々な年齢の男たちが集う職業訓練校のチグハグな雰囲気がいい。ヘラヘラして若者たちに混じる初老の鈴木常吉が絶品。シリアス路線では女が霞みがちだった山下映画だが、今回は蒼井優が求愛ダンスの妖しい魅力で圧倒。「岸辺の旅」の1シーン出演ですら助演賞ものの演技を見せた彼女だからと思いそうだが、優香までが(失礼)素晴らしい。40代を迎えた山下は30代の女優を美しく輝かせる。

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