蜜のあわれの映画専門家レビュー一覧
-
評論家
上野昻志
室生犀星の官能ファンタジーともいうべき小説が、石井岳龍の手で、見事に艶やかな映画に仕上がった。清順師の大正浪漫に対して、こちらは昭和浪漫というべきか。但し、清順師の「踏みはずした春」(58)の絵看板は出てくるものの、この世界の感触は昭和初年代のものだ。とまれ、一番の手柄は、赤い金魚の化身である二階堂ふみの存在であろう。大杉漣の作家とのやりとりが中心だが、真木よう子扮する白い幽霊との、いかにも女同士らしい語らいも味わいがある。あと笠松則通の画作り!
-
映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
よくこれが成立したな、と感心した。金魚とジジイのいちゃつき? いわゆる映像化不可能案件であり、文学として書かれていることに映像という具体をつけることをためらうような原作であると思う。しかし、やった。文学という表現をリスペクトしつつ、ゆえにおそらく大きな抵抗感を感じながらそれを突っ切り、脚本化という反文学的仕事を遂げた港岳彦に賛辞を。そして、やはり石井岳龍は映像のドライヴ感、動きと勢いをこういう題材でもちゃんと出す。観ることの快感が溢れる作品。
-
文筆業
八幡橙
金魚の少女・赤子に扮する二階堂ふみが笑い、怒り、甘え、はしゃぎ、舞い、時に凛とし、泣き喚く。彼女が見せる、水槽に湛えられた水のごとく揺らめき続ける、未完成のエロス――。これぞ、蠱惑の二階堂ふみショーなり。日本版「ロリータ」とも呼びたい「蜜のあわれ」をものした室生犀星を俗な老人作家として描く視点は面白く、思いの外振り切ったコミカルな一篇に仕上がっている。鈴木清順監督版を待ち望んでいた者としては、随所にオマージュが散見されるだけに、複雑な思いも少々。
1 -
3件表示/全3件