ひつじ村の兄弟の映画専門家レビュー一覧
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映画・漫画評論家
小野耕世
アイスランド映画では、しばしば小さなコミュニティが舞台となる。村の人たちは互いに親しいが、逆に仲がこじれると長く反目する関係にもなりやすいらしい。ここでは伝染病にかかった羊をめぐり、女のいない男たちふたりの兄弟の確執が描かれる。いつもながら風土と人間のいとなみが、世界の縮図のように感じられてくる。多くの羊が出てくるが、最後のクレジットにsheep in chief(羊のチーフ)として五頭の羊の名が出る。つまり、映画俳優と羊たちが同等のあつかいなのに感心した。
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映画ライター
中西愛子
アイスランドの村に暮らす、羊飼いの老兄弟。隣同士に住みながら、40年間絶縁していた彼らが、羊の運命を左右する事件を機に大きな秘密を共有する。なぜこの兄弟が仲違いしているのか、はっきりとはわからない。だが、どうにも疎遠であるという距離感が、些細な、かつユーモラスな描写から少しずつ伝わり、緩やかにこの映画の世界観が育まれていく。性格は異なるが、やはり似ている血の濃さが、クライマックスに向けて切なく迫る。山を駆ける羊の群れの画に無垢な美しさを感じた。
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映画批評
萩野亮
エクソダス、という語がおもわずうかんだ。もっとも愚鈍な動物とされる羊たちの、山をはるかにめざして踏みしめる一歩に胸を衝かれた。思わぬレッテルを貼られて迫害をうけ、移動を余儀なくされる羊たちの物語は、人類史のあらゆる悲劇のメタファーではないのか。血統の延命に奔走する兄弟が、彼ら自身の血の存在に気づかされてゆくのは、だからすこしもふしぎではない。「Rams(羊たち)」という簡潔な英題に同時に示されているのは、まさにこの迷える老年の兄弟のことであるだろう。
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