断食芸人の映画専門家レビュー一覧
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評論家
上野昻志
カフカの時代とは異なり、21世紀の日本では、断食芸人は、時代相を映し出す鏡として地方都市の片隅に座ることとなる。すると人がワラワラと寄ってきて騒ぎになる、というわけだが、このあたり、足立監督にしては、いささか捻りが足りないのではないか? いまの世間の空気は、もっと冷淡で苛酷な感じがするのだが。後半になると主題が絞り込まれていくのだが、鮮明な輪郭を示す興行師や呼び込み屋に比べ、僧侶の存在の意味がわからない。和田周が印象深い顔をしているだけに。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
足立正生監督の前作「テロリスト幽閉者」で抜群であったのは山本浩司。俳優の起ち上げる虚構の質が監督のそれと一致するのだろう。完全に世代も立ち位置も違うのに奇妙なめぐりあわせだと思った。本作はその山本が中心に来た。確固たる不可思議。スタイルはいまの映画とは明らかに違うが、いま、ここ、を描くのだという意志はどんな最近の映画よりもある。結果、単に現在に似ているということとは異なる、皮を?いだ現実を見せようという映画が現れる。価値のある見心地の悪さ!
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文筆業
八幡橙
カフカ晩年の短篇を100年近い歳月を経て、“テロリスト”であり、自身も幽閉された経験のある足立監督が映画化。終盤、原作に忠実なあの一言を放つ断食芸人=山本浩司には、「悪い男」のチョ・ジェヒョンにも通じる、ある種の「抜け感」はあったが、全篇を貫くアングラ、エログロ感に、断食を見せつけられながらもお腹いっぱいになったところは否めず。監督が据える確固たる核が正直?み切れず、乗り切れず。演じる面々もどこか手探りで迷いを抱えたままでいる空気さえ感じてしまった。
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