お父さんと伊藤さんの映画専門家レビュー一覧

お父さんと伊藤さん

中澤日菜子の同名小説を「ロマンス」のタナダユキが映画化。自由気ままに暮らす34歳の彩は、給食センターでアルバイトをしているバツイチの伊藤さんと狭いボロアパートで同棲中。そんなある日、息子夫婦の家を追い出された彩のお父さんが突然転がり込んでくる。出演は「陽だまりの彼女」の上野樹里、「シェル・コレクター」のリリー・フランキー、「龍三と七人の子分たち」の藤竜也。脚本は「四十九日のレシピ」の黒沢久子。
  • 映画評論家

    北川れい子

    ちょっとしたドラマ付きの環境映像並の作品だ。観ていて邪魔にはならないが、残るものもない。やたらに細部やモノにこだわり、それがその人の人間性でもあるように描いているが、ウスターソースをウースターと言ったからって、ただのクセ、それをいちいち特別であるかのように演出するタナダ節にこっちが飽きたか。そういう意味では出演者たちが喜ぶ映画かも。じっくり、ゆったり、そしてどこかトボケた演技がほとんどで、さしずめスローライフ芝居ごっこ。上野樹里は食べてばかり。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    観始めたとき、イヤなものを見せられるのではと身構えたが、そんなことはなかった。三十過ぎのヒロインがそれなりに成熟していて(そうでない面もあるが)二十歳年上彼氏にも七十代父親にも依存も萎縮もしてなくて。上野樹里素敵。いまの邦画におけるリリー・フランキーのウザくない助言者ナンバーワンとしての無敵さも再確認。そこにダスティン・ホフマンばりの作り込んだキャラをぶっこんでくる藤竜也。映像にも力がある。生活に関する発見や提案を孕む映画となってもいる。良い。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    タナダユキ監督は本来描くべき部分、例えば上野樹里とリリー・フランキーが同棲に到る過程の詳細をすっ飛ばし、あえて“お父さんと伊藤さん”の関係性を物語の中心に据えている。また、①父と伊藤さん、②父の失踪、③父帰る、という展開が3幕を構成し、父親の行動が物語を牽引していることも窺える。主人公の澄まし顔は30代女性の諦観を表しているようにも見えるが、結果的に“燃ゆる木と燃ゆる家屋”が家族を新たな世界へと導く様相は、まるで「サクリファイス」(86)のよう。

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