山河ノスタルジアの映画専門家レビュー一覧
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映画・漫画評論家
小野耕世
一九九九年から近未来の二〇二五年まで、ふたりの男に言いよられ、野心的な実業家と結婚するが、結局離婚し息子を夫にとられてしまう中国女性の女の一生ともいえる内容だが、未来の舞台はオーストラリアなので、風景が次第にひろがっていく印象があり、画面もワイドスクリーン化していくが、同時に親子間の距離もひらいてしまう。人物が列車に乗っている場面が何度かあるが、通常の映画と逆に、常に進行方向に背を向けてすわっている。未来に進みつつ想いは過去にという暗示かも。
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映画ライター
中西愛子
過去、現在、未来。3つの時代から、ひとりの女性の人生と、遠く離れた場所にいる息子の成長を、洗練された構成と映像美で描く珠玉の作品。ジャ・ジャンクーの“母”に対する思いが濃厚に込められている。彼のミューズ、チャオ・タオがヒロインを好演。私は特に、2025年を舞台にした最終章が興味深かった。異国で育ち、ルーツが見えない自身のアイデンティティーを、母の記憶の中に探そうとする青年の渇望。生き物としての不思議。人を生へと向かわせるノスタルジーに心が沁みた。
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映画批評
萩野亮
国破れて山河在り。中国は、中国人は、どこへゆくのか――。同時代の空気をもっとも繊細につかまえてきたジャ・ジャンクーがこの作品で差し出しているのは、このような問いだと思う。気心知れた炭鉱夫でなく、野心ある事業家との結婚を主人公がえらんだことは、経済発展を是とした中国の後戻りできない選択を暗示しているに違いなく、この明らかな寓意が未来さえも見通させる。時代をつなぐいつかの流行歌がこの上なく切ない。三世代を演じるチャオ・タオは映画に愛された俳優だ。
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