好きにならずにいられないの映画専門家レビュー一覧
好きにならずにいられない
アイスランドを舞台に、オタクでシャイな大男の恋の行方を綴ったラブストーリー。空港の荷物係として働くフーシは、ジオラマ製作とヘビメタ音楽好きな43歳の独身男。母親から勧められ、ダンススクールを訪れたところ、小柄な女性シェヴンと出会うが…。主演は“アイスランド版モンティ・パイソン”と呼ばれる風刺番組の主要メンバーとして活躍したグンナル・ヨンソン。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
肥満オタクが踏み出す、勇気の第一歩の物語。北欧の冬景色のもとでカウリスマキ流のニヒルな悲喜劇が踏襲されるかと思いきや、主人公が思いのほか行動力と包容力を発揮。苦境の女性を介助するくだりでは、図らずも目頭が熱くなった。空港職員の彼に対して女性が「空港は好きよ」と言う。しかし彼は、管制塔から下界を見下ろす存在ではなく、荷物の積み下ろし場から人々の往来を観察してきた人間なのだ。せり上がるヒューマニズムが、彼の仰ぐ視線から湧き水のごとく生起する。
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脚本家
北里宇一郎
例によって、淡々、おとぼけ系の北欧映画かと思ったら、じわじわと沁みてきて。一見鈍感そうな中年独身男が、実は弱い者の気持ちを汲みとる繊細な神経の持ち主というところが泣ける。この監督「マーティ」のファンかしら。ある時は躁、ある時は鬱といった人間の精神状態のごとく、人生にも陽と陰の繰り返しがあり、それならばいっそ陽の側に軸足を置いて生きて行こう――なんていう主人公像がよく練られている。ラスト・ショット一発で男の明日を暗示させた、この脚本&監督に感嘆。
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映画ライター
中西愛子
アイスランドに住む43歳、オタク、独身。母と二人暮らしの実家から、荷物係として働く会社に通う。そんな彼が、ひょんなことから女性に出会って、何やらいい感じになっていくのだが……。オタクの恋物語と一口に括れない意外な広がりに魅了される。“チャンス”はどこから降るのかと本作を観ながら考える。それはやはり“他者”ではないかと、主人公フーシがじわじわと、かつ物怖じせず関わり発見していく外の世界を共に体感しながら思う。秀逸な脚本。役者も演出も繊細でとてもいい。
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