帰ってきたヒトラーの映画専門家レビュー一覧

帰ってきたヒトラー

ドイツで200万部を売り上げ、世界41か国で翻訳されたティムール・ヴェルメシュの同名小説を映画化。突如現れたヒトラーの姿をした男が、モノマネ芸人としてテレビ界でスターになる。しかし彼は、タイムスリップしてきた本物のヒトラーだった。監督・脚本は、「Feuchtgebiete」のデヴィッド・ヴェンド。出演は、「グリード」のオリヴァー・マスッチ。
  • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

    佐々木敦

    色々と手が込んでいる。最初のうちはいかにもテレビ的な画面と編集にやや白けながら観ていたのだが、中盤でそれも(たぶん)狙ってやってたことがわかる。オリヴァー・マスッチのヒトラーぶりがあまりにも上手で、演説口調の長台詞になると思わず聴き入ってしまう。しかしこういう幾重にも屈折したアイロニカルなユーモアと一筋縄でいかないポピュリズム批判って今の日本でちゃんと受け取られるのだろうか? 単に「タブーに挑戦」した「危ない映画」として消費されないことを願う。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    アイデア勝ち、と見られても仕方ないほどの強烈な題材。街頭の一般人とゲリラで接触させ、生の反応をとらえるリアリズムを演出するため、ヒトラー役には世間にあまり面の割れていない舞台俳優が起用されているが、それによって完全なフィクションを前提とした場合の「ヒトラー」という人間の人格の掘り下げは叶わなかったようにも思う。本作におけるヒトラーはタレントが芸能活動で得た知名度と人気を元に政治家に転身する構図と酷似しており、その危険を再認識できる。

  • TVプロデューサー

    山口剛

    もし今ヒットラーが再来したら、意外にも人気者になり、強いリーダーシップを求める大衆は再び彼を選ぶのではないか……何とも空恐ろしい不敵なテーマを突きつける喜劇だ。まさに我らの内なるヒットラーである。かつて彼を選んだドイツ人だからこそ作れた映画かも知れない。素直に笑える喜劇ではない。すべて、自虐的などす黒い笑いだ。ファンタジーとドキュメンタリーを織りまぜたこの映画の世界が現実になりつつある予兆を感じる。歴史に無知な若い世代の擡頭が恐ろしい。

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