さざなみの映画専門家レビュー一覧
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映画・漫画評論家
小野耕世
学生時代に見た「長距離走者の孤独」でもトム・コートネイは、青年なのに年寄りのような顔つきが忘れられないが、この映画の彼はほんとうの老年で、ちょっとふやけた印象。結婚四十五周年をむかえる夫婦に小さな溝が生じるが、それによる気持のゆらぎをシャーロット・ランプリングが演じることで、静かだがひりひりするような映画的緊張が途切れない。邦題の「さざなみ」は見事に内容を切りとっている。出だしの部分で私は、久生十蘭の短篇小説『白雪姫』をすぐに思いうかべた。
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映画ライター
中西愛子
シャーロット・ランプリングに、何より敬意を表したい。また、皺を深く刻んだ彼女の円熟した女としての美しさを、胸がキリキリするような厳しい物語の中に、これほど品よくも人間的に沁み込ませてみせた中年世代の監督もさすがだ。穏やかだけど成熟を信じない知的な夫婦の末路。このヒロインが結婚生活45年をどう過ごしてきたのか見えないのは不満だが(彼女は夫に寄り添ってきただけではないはず)、ランプリングの佇まいや感情の揺れだけで全篇が映画の醍醐味。最後までゾクッ!
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映画批評
萩野亮
これは記録と記憶についての映画であり、フィルムやレコードが老夫婦のうすれゆく記憶とあいまいな不安にそっとさざなみを立てる。その瞬間の内なる表情を見ようとしている。主演ふたりのさすがの貫禄で全篇を見せきるが、人間の複雑な内面の襞を描くようで、じつはそれをかなり単純化している。このていどの人間理解は平凡だと思う。ふたりの老いかたもずいぶん理想化されていて、理屈で撮られた映画のように見える。シャーロット・ランプリングはときに彫像のように美しかった。
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