だれかの木琴の映画専門家レビュー一覧

だれかの木琴

「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」の東陽一が、直木賞作家・井上荒野の小説を映画化したサスペンス。平凡な専業主婦、親海小夜子は、初めて訪れた美容室の美容師・山田海斗に心を奪われ、やがて彼に執着するようになった小夜子の行動は常軌を逸してゆく。主人公の主婦を演じるのは「野のなななのか」の常盤貴子。彼女が執着する美容師には、「セトウツミ」の池松壮亮が扮している。
  • 映画評論家

    北川れい子

    シュールで官能的、しかもどこかガランとした第一級の無自覚的サスペンスである。ラストに流れる井上陽水の歌が、ヒロインを含めた“現代人”のカオスの暗示になっているのもみごとで、観終った後の方がゾクゾクする。それにしても山田洋次監督に次ぐ大ベテランの東陽一監督の、クールな感覚的演出にはシビレてしまう。常盤貴子の感情を閉ざしたような演技も素晴しく、彼女につきまとわれる美容師・池松壮亮の突き放さない演技もザワザワと心を打つ。そして世はコトもなし。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    素晴らしい。世代的な感覚? みたいなものが至極しっくりきた。携帯やメールが生の半ばに現れた世代の、今の世間の人間の距離感って変じゃない? という感じが伝わる。ストーカーだって近年に発生したものだ。これらを、あるある感ではなく現代への批評としたい。モニカ・ヴィッティの如き常盤貴子と神経症のジャッキー・チェンのような勝村政信(夫婦メールの場面が良い)、好かれ電波発生機池松壮亮ほかキャスト皆が良い。興味深い内容。見応えがあった。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    冬の寒空の下、ひとりワインを嗜む常盤貴子。彼女の姿は優雅だけど、どこかおかしい。それは“静かに狂っている”感じなのだ。そのことと同様に、常磐貴子の演じた小夜子には“悪意”がなく、だからこそ純粋なる“悪”にも見える。本作は同じ場面を〈視点の違い〉によって反復することで、見方によって見え方が違うことを提示している。よって、確かに“狂っている”のに“静かに狂っている”ようにしか見えないのだ。それゆえ、いっけん万事解決にも見える終幕へ戦慄するのである。

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